資料室 ── データ品質 ── 更新 2026-08-31

バックテストのスプレッドをいくらに置くか — 固定値にした時点で答えは決まっている

バックテストの設定画面には、たいてい「スプレッド」を入力する欄があります。0.5 と入れるか、2.0 と入れるか。

**この1つの数字で、検証結果はかなり変わります。**それは分かっていました。分かっていなかったのは、どの値を選んでも同じ種類の誤りが入るということでした。

3年分のティックで測ってから、その理由が見えました。

結論

  • スプレッドを固定値に置くと、「その値がいつのスプレッドなのか」が結果を決める
  • 実測では、同じ通貨ペアでも時間帯によって中央値で5〜8倍、90パーセンタイルでは7〜12倍動いた
  • **平均値を置くのは避けたほうがよい。**分布の裾が長いので、平均は「めったに起きない広がり」に引っ張られる
  • 中央値を置くと、時間帯を選ばない戦略では楽観的になる。半分の時間はそれより広い
  • **どの値を置いても、時間帯の偏りは表現できません。**朝方に約定する戦略は、どんな固定値でも過小評価されます
  • 固定値でやるなら、複数の値で回して結果の振れ幅を見るほうが実態に近い

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(bid/ask両方)
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日(UTC)
  • 対象: 通貨ペア17本を含む22銘柄、合計17億1,604万ティック

詳細はスプレッドが開くのは1日1時間にまとめています。

実測:1つの数字で代表できる形をしていない

米ドル/円の1日を、日本時間の各時間帯で並べます(米国夏時間・月〜木)。

日本時間中央値90パーセンタイル
18時〜翌4時(欧NY重複)0.5銭0.8銭
9〜14時(東京)0.6銭1.0銭
5時0.7銭1.4銭
6時(ロールオーバー)4.1銭9.8銭
7時1.0銭2.0銭

**最も狭い時間帯と最も広い時間帯で、中央値が8.2倍違います。**90パーセンタイルなら12.3倍です。

さらに、この「6時」は季節で7時に移ります(サマータイムで検証は1時間ずれる)。固定値で置くと、この移動も当然表現できません。

全期間の分布

中央値90%99%最大
米ドル/円0.6銭1.0銭2.3銭53.7銭

最大は中央値の90倍です。この形の分布を1つの数字で代表させるのは、そもそも無理があります。

どの値を置くと何が起きるか

平均値を置く

避けたほうがよい選択です。

分布の裾が極端に長いので、平均値は少数の大きな値に引っ張られます。実際にはめったに起きない広がりが、常時発生している設定になります。

結果として、短期売買の戦略が実態より不利に評価されます。取引回数が多い戦略ほど、この過大なコストが積み上がるためです。

中央値を置く

一見もっともらしい選択ですが、半分の時間はそれより広いという事実は変わりません。

とくに時間帯を選ばない戦略では、朝方に約定した取引のコストがまるごと過小評価されます。実測では、その差は数倍から10倍以上でした。

90パーセンタイルなど、広めの値を置く

安全側に倒す考え方です。ただし平時に取引する戦略には過剰に厳しくなります。

「厳しめに見て、それでも通るなら本物だろう」という使い方は理にかなっていますが、通らなかった戦略が本当にだめなのかは分かりません。

結局どうなるか

置いた値起きること
平均値短期・高頻度の戦略が不当に不利になる
中央値時間帯を選ばない戦略が楽観的になる
広めの値平時の戦略が過剰に厳しくなる
どの値でも共通時間帯の偏りが表現されない

最後の行が本題です。**固定値である限り、「いつ約定したか」の情報は消えます。**朝方にしか約定しない戦略と、欧州時間にしか約定しない戦略が、同じコストで評価されます。

銘柄によっては、そもそも実勢ではない

もうひとつ厄介な点があります。銘柄によって、配信されるスプレッドの性質が違います。

同じデータソースの中で調べたところ、こう分かれました。

性質銘柄
連続分布(市場が値をつけている)為替17本、金
特定の水準に張り付き銀、ビットコイン
段階的な固定値株価指数CFD

株価指数CFDは、3年・8,630万ティックでスプレッドの値が16種類しかありませんでした。上位4つで99.6%です。

**こういう銘柄では、そもそも実測に基づく固定値という発想が成り立ちません。**検査手順はForexTesterのデータはどこまで信用できるかに書きました。

実務でどう使うか

  • **具体的な数値は示しません。**戦略が約定する時間帯も、扱う銘柄も、使う業者も人によって違うためです。決めるのはご自身です
  • **自分の戦略が何時に約定しているかを先に調べてください。**エントリー時刻のヒストグラムを作れば分かります。時間帯が偏っているなら、その時間帯の実測値を使うほうが素直です
  • **1つの値で決め打ちせず、複数の値で回してください。**結果が値の選び方で大きく変わるなら、その戦略はコストに敏感だということです。それ自体が重要な情報です
  • **時間帯フィルタを持つ戦略ほど、固定値の影響が大きくなります。**朝方を狙う戦略なら、平時の値で検証しても意味がありません
  • **可変スプレッドを扱えるなら、そちらを使ってください。**固定値は近似です。近似だと分かって使うぶんには問題ありません
  • 実際のコストは時間帯別コスト計算機(TOOL-003)で確認できます。時刻を入れると、その時間帯の実測値が出ます

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません。絶対値は業者によって違います
  • 変動スプレッド系の配信です。国内店頭FXで主流の「原則固定」とは性質が違います。ただし原則固定は業者が変動リスクを引き受けている方式なので、その裏側で市場が何をしているかを示す資料としては有効です
  • 3年間の実測であり、将来も同じ分布になることを示すものではありません
  • **スリッページは扱っていません。**この記事はスプレッドのみの話です。実際のコストには約定価格のずれも乗ります
  • 固定値と可変値で実際にどれだけ成績が変わるかは、この記事では検証していません。分布の形から言えることまでです

まとめ

  • スプレッドは1つの数字で代表できる形をしていない。時間帯で中央値5〜8倍、90%点で7〜12倍動く
  • **平均値は裾に引っ張られる。**短期売買が不当に不利になる
  • **中央値は半分の時間で楽観的。**時間帯を選ばない戦略でとくに効く
  • どの固定値を置いても、時間帯の偏りは表現できない
  • 銘柄によっては、配信されるスプレッド自体が実勢ではない

「いくらに置けばよいか」という問いには答えがありません。置いた時点で何を捨てたのかを知っておくほうが実務的だと思います。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の設定値や手法を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。