資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-01

24時間365日動く市場に「早朝」はあるのか — ビットコインを1億3,336万ティックで測る

為替のスプレッドが1日1時間だけ大きく開くことは、以前の記事で実測しました。原因はニューヨーク17時のロールオーバー——決済日が切り替わる瞬間です。

ではビットコインはどうでしょうか。**決済日がありません。ロールオーバーもありません。週末も止まりません。**原因がないなら、時間帯による差も出ないはずです。

1億3,336万ティックを測ったら、そうはなりませんでした。

結論

  • **最も広い時間帯は日本時間7時、最も狭いのは22時。**どちらも為替と同じだった
  • ただし振れ幅は桁違いに小さい。中央値で1.4倍(為替は5〜8倍)
  • 週明けの日曜も平日の1.35倍広い。閉まらない市場に「週明け」がある
  • 流動性の落ち込みも浅い。最も広い時間帯のティック数は、最多時間帯の1/1.7(為替は1/6〜12)
  • 相対コストは為替の約18倍。ただしこれは値動きの大きさを考慮していない数字
  • 重要な但し書き: 43%のティックが $50.00 ちょうどだった。これは市場が決めた値ではなく、配信側が置いた水準と見るべきもの

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信する BTCUSD のティック(bid/ask両方)
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日(UTC)の3年間
  • 件数: 133,365,356件。同じ期間の米ドル/円(9,317万件)より多い

24時間365日動くぶん、ティック数は為替より多くなります。全22銘柄の中でも上位です。

先に但し書き:このスプレッドは半分が「置かれた値」

結果を出す前に、必ず言っておかなければならないことがあります。

スプレッドの値を1件ずつ数えたところ、$50.00 ちょうどが全体の 43.03% を占めていました。

値割合
$50.0043.03%
$75.704.49%
$67.702.44%
$75.301.94%

次に多い値が $75.70 で、その先も飛び飛びです。隣り合う値へのなだらかな分散がありません。

同じ期間の米ドル/円は最頻値でも17.98%で、上位5つが 6→5→7→4→3 と隣接しています。為替は連続、ビットコインは1点集中という違いです。

したがって、この記事で「ビットコインのスプレッドは○○」とは書けません。書けるのは「配信が置いた水準から離れる頻度が、時間帯でどう変わるか」までです。

データの検査手順はForexTesterのデータはどこまで信用できるかにまとめています。

結果1: 最も広い時間帯が、為替と一致した

日本時間の各時間帯で、スプレッドの中央値を並べます(単位はドル)。

日本時間中央値90%点ティック数
9〜14時(東京)$53.6〜55.8$88〜98各440〜566万
15〜20時(ロンドン)$53.3〜56.0$80〜89各446〜488万
22時〜翌1時(欧NY重複)$50.0(最狭)$81〜86各672〜796万(最多)
2〜4時$51.4〜53.2$86〜89各617〜671万
5時$59.3$94.7565万
6時$62.6$125.0492万
7時$67.7(最広)$123.3463万(最少)
8時$57.7$109.2507万

**最も広いのが日本時間7時、最も狭いのが22時前後。**為替とまったく同じ場所です。

ティック数も同じ形で動きます。最も広い7時が最もティックが少なく、最も狭い22〜翌1時が最も多い。

結果2: ただし振れ幅は桁違いに小さい

ビットコイン米ドル/円(参考)
最も広い時間帯日本7時日本6時(夏)/7時(冬)
最も狭い時間帯日本22時日本18時〜翌1時
中央値での拡大1.4倍9.0倍
最広時間帯のティック数最多の1/1.7最多の1/12.6

形は同じ、振れ幅は別物です。為替が9倍になるところ、ビットコインは1.4倍。流動性の落ち込みも、為替が12分の1になるところ1.7分の1で済んでいます。

「時間帯構造はあるが、為替ほど鋭くない」というのが正確な言い方です。

結果3: 閉まらない市場に「週明け」があった

曜日別に見ると、もっと不思議なことが起きています。

曜日中央値99%点ティック数
日$67.7$146.41,288万
月$50.0$112.32,209万
火$50.0$113.62,211万
水$50.0$120.52,212万

日曜だけ中央値が1.35倍です。

ビットコインは週末も同じように動いています。ティック数を見ても、日曜は平日の6割ほどあり、市場が閉まっているわけではありません。それでも日曜のスプレッドは広い。

解釈:決済の仕組みでは説明がつかない

為替の場合、日本時間6〜7時に開く理由ははっきりしています。ニューヨーク17時に決済日が切り替わり、その瞬間だけ値を出す主体が引くからです。制度に紐づいた現象です。

**ビットコインにはその制度がありません。**決済日も、ロールオーバーも、週末クローズもない。それなのに同じ時間帯が最も広く、同じ時間帯が最も狭く、週明けまで広くなります。

制度で説明できないなら、残る説明は1つです。値を出している主体が同じ人間の時間割で動いているということです。

  • 最も狭い22時〜翌1時は、欧州とニューヨークが両方起きている時間帯
  • 最も広い7時は、ニューヨークが寝ていて東京がまだ本格稼働していない時間帯
  • 日曜が広いのは、平日より人が少ないから

市場そのものは24時間365日動いていても、流動性を供給する側は24時間365日働いていない。実測から読み取れるのはそこまでです。

実務でどう使うか

  • **「24時間動くから、いつ取引しても同じ」ではありません。**時間帯によってコストが変わることは実測できます。ただし為替ほど極端ではないので、優先度は低めです
  • 週明けの日曜は他の曜日より不利でした。持ち越しや週末の建玉調整をするなら、覚えておく価値があります
  • **配信側が置いた水準(この場合 $50.00)がどこにあるかを、自分の口座で確認してください。**そこが実質的な下限になります
  • 現物取引所で取引する場合、この記事の数字はそのまま当てはまりません。板の厚みで決まるスプレッドとは仕組みが違います

データの見方(方法と限界)

  • **CFD配信のデータです。**現物取引所(板)のスプレッドとは別物です
  • **43%が $50.00 に張り付いています。**時間帯による差は「その水準から離れる頻度の差」として現れています。市場が連続的に値をつけた結果ではありません
  • **1銘柄のみです。**ForexTester が配信する仮想通貨は BTCUSD の1本だけで、イーサリアム等は取得できませんでした。他の銘柄で同じ形になるかは不明です
  • 3年間(2023年8月〜2026年8月)のデータです。この期間は現物ETFの承認をまたいでおり、参加者の構成が変わった可能性があります
  • 相対コスト(価格に対する比率)は為替の約18倍ですが、値動きの大きさを考慮していません。ビットコインは為替よりはるかに大きく動くので、「動きに対するコスト」で見れば評価は変わります

まとめ

  • ビットコインの最も広い時間帯は日本時間7時、最も狭いのは22時。為替と一致した
  • 振れ幅は1.4倍で、為替(9倍)より桁違いに小さい
  • 日曜は平日の1.35倍。閉まらない市場に「週明け」がある
  • 決済の仕組みでは説明できない。説明できるのは誰が起きているかだけ
  • ただし43%が $50.00 に張り付いた配信であり、市場が連続的に値をつけたデータではない

「制度がないのに同じ形が出る」というのは、時間帯構造の正体が制度ではなく人間の側にあることを示す例になっています。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や銘柄を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。