資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-08-27
ゴトー日は実在するのか — 775営業日のティックで確かめたら、通説とは違う場所に差が出た
「ゴトー日(5・10・15・20・25・30日)は、仲値に向けてドル円が上がりやすい」
日本のFXでよく語られる話です。輸入企業の決済が5の倍数の日に集中するため、銀行が仲値(日本時間9時55分)を決めるまでにドル買いが出る——という説明がつきます。
理屈は分かるのですが、日本固有の通説なのに、ティックで検証した資料が見当たりませんでした。
そこで測りました。3年分・775営業日です。結果は、通説が当たっている場所とは別のところに差が出ました。
結論
- 「仲値に向けて上がる」は、この3年では誤差の範囲だった。方向は通説どおりだが、差は小さすぎて区別がつかない
- かわりに仲値の「後」に差が出た。ゴトー日は9時55分から11時にかけて平均**-4.95銭下げており、平常日(-0.64銭)の約8倍**
- 上昇した日の割合も、仲値後はゴトー日 38.6% に対し平常日 47.6%
- つまり通説が正しいとしても、買い需要は仲値で消化され、その後に戻るという読み方になる
- **ただしこの結果も慎重に読む必要がある。**時間の窓を2つ、日にちを6つ見ているので、そのうち1つに差が出るのは珍しくない
測り方
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信する米ドル/円のティック
- 期間: 2023年8月28日〜2026年8月21日、775営業日(ゴトー日153日 / それ以外622日)
- 測った値: 各営業日の日本時間 8:00 → 9:55(仲値まで)と、9:55 → 11:00(仲値後)の変化
- 価格は中値((bid+ask)÷2)を使いました。bidやaskで測るとスプレッドの影響が混ざります
- ゴトー日は「その月の5の倍数の日で、取引がある日」としました
結果1: 仲値までの上昇は、誤差の範囲だった
| 日数 | 平均 | 中央値 | 上昇した日 | |
|---|---|---|---|---|
| ゴトー日 | 153 | +2.97銭 | +3.20銭 | 56.9% |
| それ以外 | 622 | +1.16銭 | +2.60銭 | 54.7% |
差は +1.81銭。**方向は通説どおりです。**ゴトー日のほうが上がっています。
ただし、この差の標準誤差は 2.23銭でした。差を標準誤差で割ると 0.81 です。
この値が2を超えないうちは、「たまたまこうなった」で説明がついてしまいます。3年775営業日を使っても、通説を確かめられませんでした。
中央値で見るとさらに差は縮みます(+3.20銭 vs +2.60銭)。上昇した日の割合も 56.9% と 54.7% で、2ポイントしか違いません。
結果2: 差が出たのは仲値の「後」だった
同じ日を、9時55分から11時までで測り直します。
| 日数 | 平均 | 中央値 | 上昇した日 | |
|---|---|---|---|---|
| ゴトー日 | 153 | -4.95銭 | -3.60銭 | 38.6% |
| それ以外 | 622 | -0.64銭 | -0.80銭 | 47.6% |
下げ幅が平常日の約8倍です。上昇した日の割合も 38.6% と、平常日(47.6%)より明確に低くなっています。
差は -4.31銭、標準誤差は 1.58銭。差を標準誤差で割ると -2.73 です。今度は2を超えました。
通説が言う「上がる」よりも、「そのあと下げる」ほうがはっきり観測されました。
もし通説の仕組み(輸入企業の決済によるドル買い)が実在するなら、この形は筋が通ります。買い需要は仲値で消化され、需要が消えた後に価格が戻るからです。
結果3: 5日だけ符号が逆だった
日にち別に、仲値までの平均を出すとこうなります。
| 日 | 日数 | 平均 | 上昇した日 |
|---|---|---|---|
| 5日 | 27 | -8.16銭 | 37.0% |
| 10日 | 26 | +3.94銭 | 65.4% |
| 15日 | 25 | +5.12銭 | 60.0% |
| 20日 | 27 | +4.00銭 | 66.7% |
| 25日 | 24 | +10.08銭 | 62.5% |
| 30日 | 24 | +3.96銭 | 50.0% |
5日だけ符号が逆で、他の5つは揃って上向きです。
ただし各日は24〜27サンプルしかありません。平均は外れ値1〜2本で簡単に動く水準です。「5日だけ違う」と言い切れる材料ではありません。
この結果の読み方(重要)
ここまでの数字には、自分で仕掛けた落とし穴があります。
**時間の窓を2つ(仲値前・仲値後)、日にちを6つ見ています。**合わせて8通りの比較をしたうえで、そのうち1つに「差÷標準誤差 = 2.73」が出ました。
たくさん比較すれば、どれか1つに差が出るのは珍しくありません。これはたくさん試して一番良いのを選ぶと、なぜ嘘の好成績が生まれるのかで書いた問題そのもので、自分の検証にもそのまま当てはまります。
したがって、仲値後の差も「見つけた」ではなく「候補が出た」と読むのが正直なところです。確かめるには、別の期間や別のデータで同じ場所を見に行く必要があります。
平均と中央値で像が違う点にも注意してください。仲値後のゴトー日は平均 -4.95銭ですが、中央値は -3.60銭です。平均のほうが大きく下げているのは、大きく下げた日が何日かあって引っ張られているからです。
実務でどう使うか
- **「ゴトー日は仲値まで上がる」を前提に置くのは、この結果からは支持されません。**方向は出ましたが、3年分でも誤差と区別できませんでした
- 前後で符号が違うことは覚えておく価値があります。仲値の前と後を同じ日として扱うと、打ち消し合って何も見えなくなります
- 時間帯を条件にする戦略を作るなら、その条件を±1時間ずらして壊れないかを必ず見てください。仲値は日本時間で固定ですが、欧米の時刻に紐づく条件は季節で1時間ずれます(サマータイムで検証は1時間ずれる参照)
- 朝方はコストも高い時間帯です。日本時間6〜7時ほどではないものの、8〜9時台は欧米の主要参加者が不在です。値動きの話だけで判断せず、実測した時間帯プロファイルと合わせて見てください
データの見方(方法と限界)
- ゴトー日が休業日のときの前倒しを追っていません。仲値は前営業日に移りますが、その分は「それ以外」に混ざっています。したがって差は過小評価になっている可能性があります
- **3年は短いです。**しかもこの期間の円は、介入と金融政策の転換をまたいでいます。特殊な期間だった可能性は否定できません
- 1つの配信元のデータです。中値を使っているので配信差の影響は小さいはずですが、他の配信元で同じになるかは確認していません
- 8通りの比較をしています(上の「読み方」参照)。単独の結果として強く受け取らないでください
- 米ドル/円のみです。他のクロス円は測っていません
まとめ
- 「ゴトー日は仲値に向けて上がる」は、775営業日でも誤差の範囲だった(差÷標準誤差 = 0.81)
- かわりに仲値の後の下げが目立った。平常日の約8倍(差÷標準誤差 = -2.73)
- 5日だけ符号が逆だが、サンプルが少なく言い切れない
- 8通りの比較をしているので、この結果自体も候補にすぎない
通説を否定する記事ではありません。通説が想定している場所には差がなく、その隣に差らしきものがあった、というだけです。そしてそれも、確かめるにはもう一度別のデータで見に行く必要があります。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信する米ドル/円のティック。2023年8月28日〜2026年8月21日、775営業日。集計スクリプトは自作
- 多重比較の問題: たくさん試して一番良いのを選ぶと、なぜ嘘の好成績が生まれるのか(当サイト)
- 時間帯別のコスト: スプレッドが開くのは1日1時間(同一データによる当サイトの実測)
- 仲値と時間帯の構造: 時間帯で市場はどう変わるか
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や手法を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。