資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-03

「NZドルは1日2回ロールする」は本当か — 3年分のティックで確かめたら、2回目は2分だけだった

FXには**バリューデート(受渡日)**という概念があり、これが1日進むタイミングで、値付けが一時的に薄くなります。スプレッドが開くのは1日1時間で測ったとおり、この時間帯だけスプレッドは桁違いに開きます。

そして、こういう話があります。

バリューデートのロールはニューヨーク17時が世界共通の慣行。ただし NZD/USD だけはオークランド7時にロールする。したがってNZドルのペアは1日2回開く。

もし本当なら、NZドルを触る人は1日2回避ける時間があることになります。

3年分のティックで確かめました。

結論

  • **通説は正しかった。**オークランド7時ちょうどに、NZドルのペアだけスプレッドが開いていました
  • **対照はまったく動きませんでした。**豪ドル/米ドル、米ドル/円、ユーロ/米ドルは、その時刻に何の反応もありません
  • ただし大きさが桁違いです。ニューヨーク17時が平常の9〜26倍・1時間続くのに対し、オークランド7時は1.3〜1.6倍・1〜3分でした
  • したがって「1日2回開く」は事実ですが、2回目は実務上ほぼ無視できます
  • おまけの発見が2つ。NZ円クロスにも出ました(慣行はNZD/USDについての記述なのに)。そしてニューヨーク17時のピークは17時ちょうどではなく、+4分でした

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
  • 対象: NZドル/米ドル、NZドル/円(検証対象)/ 豪ドル/米ドル、米ドル/円、ユーロ/米ドル(対照)
  • やり方: 各ティックを「ニューヨーク17時からの分」と「オークランド7時からの分」の両方に振り分け、分ごとに中央値を出す

夏時間の扱いでつまずくところ

ここが今回いちばん気をつけた点です。

時計時刻でそのまま集計すると、夏時間の切り替わりでピークが2つの時刻に塗り広げられます。この失敗はサンプルを増やしたら、かえって間違えたで書いたとおりで、実際に倍率が3〜4倍過小に出ます。

さらに厄介なのは、ニュージーランドの夏時間は南半球なので、北半球と時期が逆だということです。

夏時間の期間
米国3月第2日曜 〜 11月第1日曜
ニュージーランド9月最終日曜 〜 4月第1日曜

つまり米国の夏時間で割ってはいけません。それぞれの現地時刻に合わせてから積む必要があります(サマータイムで検証は1時間ずれる)。

もうひとつ。オークランド7時はUTCでは前日の18時または19時にあたるので、UTC金曜の窓はオークランド土曜7時になります。NZ側のロールは平日のみなので、ここは除きました。除かないと効果が薄まります。

結果

平常時(どちらのロール窓にも入らない時間)の中央値を1として、それぞれのピークを並べます。

ペアニューヨーク17時開いていた時間オークランド7時開いていた時間
NZドル/米ドル9.3倍46分1.3倍1分
NZドル/円26.2倍61分1.6倍3分
豪ドル/米ドル7.2倍36分1.0倍0分
米ドル/円14.8倍60分1.0倍0分
ユーロ/米ドル14.3倍54分1.0倍0分

「開いていた時間」は、中央値が平常の1.2倍を超えていた分数です。

**対照3ペアはオークランド7時に一切反応していません。**NZドルのペアだけに出たので、偶然の揺らぎではありません。

オークランド7時の前後(NZドル/米ドル)

7時からの分中央値(pips)
-3分1.1
-2分1.0
-1分1.2
0分1.3
+1分1.2
+2分1.1
+3分1.1

1分で終わります。

同じ時刻の豪ドル/米ドルは、-5分から+5分まですべて1.0でした。

ニューヨーク17時の前後(NZドル/米ドル)

比較のために、同じ縮尺で。

17時からの分中央値(pips)
-1分1.8
0分1.9
+1分7.1
+2分7.0
+3分7.3
+4分9.3
+5分6.7

**桁が違います。**そして形も違って、こちらは46分間続きます。

気づいたこと

1. ピークは17時ちょうどではない

上の表を見ると、+0分(1.9)から +1分(7.1)で急に跳ねています。最大は +4分です。

「17時ちょうど」ではなく、17時を過ぎてから数分間が最も広い、という形でした。5ペアすべてでピークは +4分でした。

避ける時刻を決めるときは、時計ちょうどで再開すると、いちばん広い瞬間に戻ってくることになります。

2. NZ円クロスにも出た

通説で名前が挙がるのは NZD/USD です。ところがNZドル/円にも出ました。しかも倍率は NZD/USD より大きい(1.6倍)。

配信元が、慣行の対象ペアだけでなくNZドルを含むペア全体に同じ扱いをしていると考えると筋が通ります。ただしこれは推測です。

3. 時間単位で見ていたら見つからなかった

以前の集計は1時間単位でした。その粒度だと、NZドル/米ドルのニューヨーク17時のピークは 3.6倍に見えていました。今回、分単位で正しく揃えたら 9.3倍です。

**1時間の枠に、5分の山を入れて平均すると潰れます。**同じことがオークランド7時にも起きていて、1〜3分の山は1時間の枠では完全に消えていました。

見つけたい現象の幅より細かく測らないと、あるものが無いように見えます。

実務でどう使うか

  • **オークランド7時は、避けるべき時間としては小さすぎます。**1.3〜1.6倍が1〜3分です。ニューヨーク17時(9〜26倍が1時間)とは比べ物になりません
  • 優先順位を間違えないでください。「NZドルは1日2回」という言い方は、2回が同じ重さのように聞こえます。実際は違います
  • ニューヨーク17時のほうは、+4分あたりが最大です。時計ちょうどを基準にすると外れます
  • 自分の取引時刻のコストは時間帯別コスト計算機で確認できます(※こちらは1時間単位なので、上に書いた潰れ方が起きています。桁の見当をつける用途と考えてください)
  • **NZドルの円クロスにも出ます。**NZD/USD だけの話ではありませんでした

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません。別の配信では違う可能性があります
  • **通説の一次資料は確認できていません。**この慣行は市場慣行の解説資料に記載がありますが、ニュージーランドの業界団体が公開している FX 慣行文書(2020年5月版)を確認した範囲では、ロール時刻についての記述を見つけられませんでした。別文書がある可能性が高いのですが、今回は取得できていません
  • したがってこの記事が示せるのは「通説と同じ時刻に、NZドルのペアだけ山がある」というところまでです。慣行の条文そのものを検証したわけではありません
  • 「なぜ2回目が小さいのか」は推測です。バリューデートの慣行(受渡の話)と、値付けが薄くなること(スプレッドの話)は別の仕組みなので、片方が小さくても矛盾はしません
  • 変動スプレッド系の配信です。国内店頭FXで主流の「原則固定」では、拡大のかわりに約定拒否という形になることがあります(約定とスリッページの仕組み)
  • 週末をまたぐ回は除いています

まとめ

  • 「NZドルは1日2回ロールする」は本当だった。オークランド7時に、NZドルのペアだけ山が立つ
  • 対照3ペアはまったく動かないので、偶然ではない
  • ただし 1.3〜1.6倍・1〜3分。ニューヨーク17時の 9〜26倍・1時間とは桁が違う
  • NZ円クロスにも出た(慣行の記述はNZD/USDについてのもの)
  • ニューヨーク17時のピークは17時ちょうどではなく +4分
  • 1時間単位で測っていたら、この山は見えなかった

通説は正しかったのですが、正しさと重要さは別でした。1日2回あることと、2回とも気にする必要があることは、同じではありません。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。