資料室 ── 検証の統計学 ── 更新 2026-09-15
並べ替えで消えるのは方向ではなかった — モンテカルロが捨てている情報を110万分で測る
自動売買ツールのモンテカルロ検証は、たいてい履歴を並べ替えて成績のばらつきを出します。
Walk-Forwardとモンテカルロが「保証しないこと」で、「単純な並べ替えは系列依存を壊す」と書きました。ただ、それは概念として書いただけで、どれだけ壊れるかは測っていませんでした。
測りました。3通貨ペア、110万分です。
結論
- **リターンの方向は、並べ替えても何も変わりません。**もともと自己相関がほぼゼロなので、壊すものがありません
- **消えるのは「荒れ方の持続」**でした。値幅の自己相関 0.32〜0.34 が、並べ替えるとゼロになります
- 「大きく動いた分の次も大きい」確率が 27.9% → 10.2% に落ちます。10%は基準値そのものです
- 連続して荒れた最長が40分 → 6分に潰れます
- **1日(1,440分)離れたところで自己相関が上がり返します。**これは時間帯構造です。ブロック法でもここは保てません
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
- 対象: 米ドル/円・ユーロ/米ドル・英ポンド/円
- 作り方: ティックから1分ごとの中値を作り、連続する2分がそろっているところだけをリターンにします(週末や休止をまたぎません)。約111万本
- 並べ替え: 全体をランダムに並べ替えます。乱数の種は固定しました。同じ結果を再現できるようにするためです
測るのは3つです。
- リターンそのものの自己相関(方向は続くか)
- 値幅(リターンの絶対値)の自己相関(荒れ方は続くか)
- 上位10%の値幅の分の次も上位10%である確率
これを実データと並べ替え後で比べます。
結果1:方向は、もともと続いていない
米ドル/円のリターンそのものの自己相関です。
| ラグ | 1分 | 5分 | 30分 | 60分 | 240分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 実データ | -0.0060 | -0.0004 | -0.0053 | -0.0002 | 0.0011 |
| 並べ替え後 | 0.0003 | 0.0007 | 0.0009 | 0.0007 | 0.0002 |
どちらもゼロです。110万本のデータで意味を持つ最小の値(ノイズ水準)は±0.00095なので、実データの値もほぼその範囲に収まっています。
3ペアとも同じでした。「次の1分がどちらへ動くか」の情報は、そもそも入っていません。
だから、並べ替えても何も失われません。
※ 英ポンド/円のラグ1分だけ -0.0162 と、ノイズ水準の17倍の値が出ました。ゼロと言い切るのは避けておきます。符号が負なので「直前の動きの反対に戻りやすい」向きですが、この記事では追いません。
結果2:荒れ方は続いていて、並べ替えると消える
値幅(絶対値)にすると、まったく違う姿になります。
| ラグ | 1分 | 5分 | 30分 | 60分 | 120分 | 240分 | 480分 | 1440分 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 米ドル/円 実 | 0.3405 | 0.2668 | 0.2155 | 0.1811 | 0.1348 | 0.0983 | 0.0909 | 0.1315 |
| 米ドル/円 並 | 0.0011 | -0.0009 | 0.0010 | -0.0003 | -0.0003 | 0.0010 | -0.0014 | -0.0012 |
| ユーロ/米ドル 実 | 0.3173 | 0.2641 | 0.2189 | 0.1888 | 0.1458 | 0.0961 | 0.0383 | 0.1523 |
| 英ポンド/円 実 | 0.3201 | 0.2469 | 0.2019 | 0.1752 | 0.1356 | 0.1035 | 0.0897 | 0.1287 |
3ペアで 0.32〜0.34 と揃いました。
そして並べ替えると、すべてノイズ水準まで落ちます。±0.002以内です。完全に消えました。
リターンの統計的性質の記事で「ボラティリティクラスタリングがある」と書いたものが、手元のデータでも出たわけです。
結果3:「荒れは続く」を確率にする
もっと直感的な形にします。
値幅の上位10%を「大きい」と呼びます。大きく動いた分の、次の1分も大きい確率を数えます。
| しきい値 | 該当した分 | 次も大きい確率 | 並べ替え後 | 最長連続 | 並べ替え後 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 米ドル/円 | 3.2銭 | 112,152 | 27.9% | 10.2% | 40分 | 6分 |
| ユーロ/米ドル | 1.8pips | 110,867 | 27.6% | 9.9% | 21分 | 5分 |
| 英ポンド/円 | 4.2銭 | 111,769 | 26.4% | 10.1% | 25分 | 7分 |
実データでは基準(10%)の約2.7倍です。
並べ替えると 9.9〜10.2%。**基準そのものに戻ります。**当たり前ですが、それが「独立になった」ということです。
そして最長連続が40分から6分に潰れます。
ここが本題です
並べ替え型のモンテカルロが捨てているものは、方向の情報ではありません。方向の情報は、もともと入っていないからです。
捨てているのは**「荒れた時間がまとまって来る」という性質**です。
これは実務でこう効きます。
- 実データでは、40分連続で大きく動くことがあります
- 並べ替えたデータでは、6分が最長です
- つまり並べ替えた世界には、荒れが固まって襲ってくる場面が存在しません
ドローダウンは「悪いことが続く」ことで生まれます。続くこと自体を消してから並べ替えのばらつきを見ている、というのがこの手続きの構造です。
ただし**ここは注意が要ります。**測ったのは1分足のリターンであって、トレードの損益列ではありません。トレード列でどれだけ持続性があるかは、この記事では測っていません。構造は同じでも、量は違うはずです。
ブロックにしても、1日周期は保てない
前の記事で、依存を保つ工夫として「ブロック単位で再抽出する方法」を挙げました。ブロックの長さが新しい任意パラメータになる、とも書きました。
その長さを決めるための数字が出ました。
| ラグ | 60分 | 120分 | 240分 | 480分 | 1440分(1日) |
|---|---|---|---|---|---|
| 米ドル/円 | 0.1811 | 0.1348 | 0.0983 | 0.0909 | 0.1315 |
| ユーロ/米ドル | 0.1888 | 0.1458 | 0.0961 | 0.0383 | 0.1523 |
| 英ポンド/円 | 0.1752 | 0.1356 | 0.1035 | 0.0897 | 0.1287 |
**60分のブロックにしても、まだ0.18残っています。**8時間まで伸ばして0.04〜0.09です。
そして1,440分(1日)で上がり返します。3ペアとも 0.13〜0.15 です。
これは時間帯構造です。スプレッドが開くのは1日1時間や時間帯の記事で測ってきた、あの日内のリズムが、自己相関の形で顔を出しています。24時間後の同じ時刻は、似た荒れ方をするわけです。
**ブロック長を1日より短くすると、この周期は保てません。**そして1日より長いブロックにすると、今度はブロックの本数が足りなくなります。3年で1,096本しかありません。
実務でどう使うか
- 並べ替え型のモンテカルロの結果は、「独立だったらこうなる」という値です。実際のデータは独立ではありません
- **「方向の情報を壊している」わけではありません。**そこは元から無いので、並べ替えの短所には数えなくてよいでしょう
- **短所は「荒れが固まる場面が消える」ほうです。**40分連続が6分になります
- **ブロック法を使うなら、長さを記録してください。**60分でも0.18残り、1日より短いと日内の周期が保てません
- どの型のモンテカルロを使ったかを検証の記録に残してください。並べ替えか、ブロックか、再抽出かで、置いている仮定が違います
- ここで測ったのは1分足のリターンです。自分の戦略のトレード列で同じ計算をすれば、その戦略についての数字が出ます
データの見方(方法と限界)
- **1分足のリターンで測りました。トレードの損益列ではありません。**構造は同じでも量は違うはずです
- 3通貨ペア・3年分です
- 1つの配信元のデータです
- 乱数の種は1つです。並べ替えのばらつきは見ていません(「消える」ことの確認には足ります)
- 「ドローダウンを過小評価する」は推測です。この記事では測っていません
- 英ポンド/円のラグ1分のリターン自己相関 -0.0162 は、ノイズ水準の17倍です。ゼロと言い切っていません
- 連続する2分がそろっているところだけを使っています。週末や休止をまたぐ組は除いています
まとめ
- リターンの方向は、もともと自己相関がほぼゼロ。並べ替えても何も変わらない
- 値幅の自己相関は 0.32〜0.34。並べ替えるとゼロになる
- 「大きく動いた分の次も大きい」確率が 27.9% → 10.2%(基準値)
- 連続して荒れた最長が 40分 → 6分
- 1日離れたところで自己相関が上がり返す(時間帯構造)。ブロック法でもここは保てない
モンテカルロが捨てているのは、未来を当てる情報ではなく、荒れが固まって来るという事実でした。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(2023年8月25日〜2026年8月23日、3通貨ペア)。集計スクリプトは自作
- 概念の整理: Walk-Forwardとモンテカルロが「保証しないこと」(当サイト)
- リターンの統計的性質: 予測できるのは方向ではなく値幅(当サイト)
- 時間帯構造: スプレッドが開くのは1日1時間 / 取引時間帯と値動きの関係(当サイト)
- 記録の残し方: 結果を見る前に、合否の基準を書いておく(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の手法の利用を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。