資料室 ── データ品質 ── 更新 2026-09-25
EAが払うのは足の始値のスプレッド — 中央値で置くと1.1〜1.8倍少なく見積もる
バックテストのスプレッドをいくらに置くかでは、スプレッドが時間帯で何倍も動くので、固定値1つでは代表できないと書きました。
今回はその続きです。問いを1つ絞ります。
EAは、実際にはいつのスプレッドを払っているのでしょうか。
多くのEAは、シグナルが出た足が閉じたあと、次の足の始値で成行エントリーします。払うのは1日を通した典型値ではなく、足が開く瞬間のスプレッドです。そこだけを集めて測りました。
結論
- 足の始値のスプレッドは、平均が中央値の1.1〜1.8倍でした(7通貨ペア・3種類の足)。取引の時間帯を選ばないEAなら、払う総額に効くのは平均のほうです。中央値を置くと、そのぶん少なく見積もることになります
- 7ペア中5ペアで、1時間足の始値がいちばん高くつきました。「足が長いほど安い」という直感とは逆です
- 原因はロールオーバーでした。スプレッドの広がりはニューヨーク17時から18時00分まで続き、18時01分に大きく下がります。18時ちょうどに開く足は、まだ広い状態で始値がつきます
- ロールオーバーの前後を除くと、毎時00分はほかの分と変わりません(1.00〜1.02倍)。00分そのものが高いわけではありませんでした
- どの固定値を置いても、ロールオーバーまわりのテールは表せません。米ドル/円の5分足では、始値の2.64%(38回に1回)が4銭を超えていました
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(bid/ask両方)
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日(UTC)
- 通貨ペア: 米ドル/円、ユーロ/米ドル、ポンド/米ドル、ユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、豪ドル/米ドル
- 測り方: 各分の最初のティックのスプレッドを、その分の始値のスプレッドとみなしました。そのうえで足の境目の分だけを集めます
- 1時間足(H1) … 毎時00分
- 15分足(M15) … 00・15・30・45分
- 5分足(M5) … 5分刻み
- 重みづけ: 分について等重みにしました。ティックの件数で重みをつけると、値のつき方がまばらな時間帯の寄与が小さくなります。スプレッドが広いのはまさにそういう時間帯なので、小さく出てしまいます
- 単位: 円がらみは銭、それ以外は pips
結果1:平均は中央値の1.1〜1.8倍
足の始値のスプレッド(平均)です。中央値は、どのペアでも足の長さによらず同じ値でした。
| 通貨ペア | 中央値 | H1 | M15 | M5 | 全分 | 平均÷中央値 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 米ドル/円 | 0.5 | 0.91 | 0.82 | 0.80 | 0.79 | 1.58〜1.82 |
| ユーロ/米ドル | 0.3 | 0.50 | 0.44 | 0.42 | 0.42 | 1.40〜1.67 |
| ポンド/米ドル | 0.8 | 1.15 | 1.04 | 1.02 | 1.00 | 1.25〜1.44 |
| 豪ドル/円 | 0.8 | 1.27 | 1.22 | 1.21 | 1.16 | 1.45〜1.59 |
| 豪ドル/米ドル | 1.0 | 1.16 | 1.11 | 1.10 | 1.09 | 1.09〜1.16 |
| ユーロ/円 | 1.0 | 1.45 | 1.50 | 1.51 | 1.46 | 1.45〜1.51 |
| ポンド/円 | 1.9 | 2.56 | 2.70 | 2.70 | 2.64 | 1.35〜1.42 |
中央値と平均の開きは、ペアによって1.1倍から1.8倍までありました。
分布の裾が長いので、平均は中央値より上に来ます。ここまでは予想どおりです。予想と違ったのは、上の5ペアで1時間足がいちばん高いことでした。
結果2:00分が高いのは、ロールオーバーの時間だけ
最初は「毎時00分は、何かの切り替わりでスプレッドが広がるのではないか」と考えました。そこで分(0〜59)ごとに平均を出し、00分がほかの分の何倍かを見ました。
| 除いたもの | 00分の倍率 | 30分の倍率 |
|---|---|---|
| ロールオーバーの1時間(NY17時台) | 1.09〜1.35倍 | 1.02〜1.11倍 |
| ↑に加えて、経済指標の前後(-5分〜+15分) | 1.08〜1.30倍 | 0.98〜1.00倍 |
| ↑に加えて、ロールオーバーの前後1時間 | 1.00〜1.02倍 | 1.00倍 |
(7ペアの範囲。経済指標は同ソフト付属のカレンダーで、重要度が中以上のもの)
**30分の高さは経済指標でした。**米国の指標の多くはNY 8時30分に出るので、指標の前後を抜くと差が消えます。
**00分の高さは、ロールオーバーの前後を抜くと消えました。**日中の00分は、ほかの分とまったく同じです。
では、ロールオーバーの前後のどこに00分があるのか。NY17時を起点に、分ごとに並べました(米ドル/円・平日)。
| NY時刻 | 16:59 | 17:00 | 17:04 | 17:30 | 17:59 | 18:00 | 18:01 | 18:05 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均(銭) | 2.27 | 5.02 | 12.29 | 5.12 | 4.46 | 4.14 | 1.82 | 1.43 |
**広がりは18時00分まで続いて、18時01分に大きく下がります。**平常(米ドル/円で0.5〜0.6銭)に戻るまではさらに数分かかりますが、段差は18時00分と01分のあいだにあります。7ペアすべてで同じ形でした。
| 通貨ペア | 18:00 | 18:01 |
|---|---|---|
| 米ドル/円 | 4.14 | 1.82 |
| ユーロ/米ドル | 2.05 | 0.99 |
| ポンド/米ドル | 4.86 | 2.36 |
| ユーロ/円 | 6.90 | 3.62 |
| ポンド/円 | 10.52 | 6.27 |
| 豪ドル/円 | 6.51 | 3.02 |
| 豪ドル/米ドル | 2.64 | 1.71 |
18時の足は18時00分に開きます。**その瞬間は、まだロールオーバーの広さが残っています。**18時00分と18時01分の差は、どのペアでも1.5〜2.3倍ありました。
なぜ1時間足がいちばん高いのか
1日のうち、ロールオーバーの広がりの中で開く足の割合を数えると説明がつきます。
| 足 | 1日の本数 | 17:00〜18:00 に開く本数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| H1 | 24 | 2(17:00と18:00) | 8.3% |
| M15 | 96 | 5 | 5.2% |
| M5 | 288 | 13 | 4.5% |
1時間足は、広い時間に当たる割合が5分足のほぼ2倍です。17時に開く足と18時に開く足の両方が広がりの中に入るためです。
ただし、広がりの山(米ドル/円なら17時04分)には、5分足や15分足の始値しか当たりません。円のクロス(ユーロ/円・ポンド/円)は山がとくに高いので、そちらの効果が勝って、短い足のほうが高くなったと考えています。ポンド/円は17時05分に平均32.7銭でした。
**これは数字の辻褄が合うという説明で、確かめたわけではありません。**あとで書くとおり、円のクロスは測り方の都合で1時間足が低めに出ている可能性もあります。
テール:固定値では表せない
利確幅が小さい取引では、平均よりも**「たまに来る大きな値」**が効きます。始値のスプレッドが4(円がらみは銭、それ以外は pips)を超えた割合です。
| 通貨ペア | H1 | M15 | M5 | M5の99%点 |
|---|---|---|---|---|
| 米ドル/円 | 4.10% | 2.94% | 2.64% | 8.3 |
| ユーロ/米ドル | 1.51% | 0.94% | 0.85% | 3.7 |
| ポンド/米ドル | 4.43% | 3.18% | 2.83% | 8.1 |
| 豪ドル/円 | 6.47% | 4.98% | 4.34% | 12.7 |
| 豪ドル/米ドル | 2.02% | 1.58% | 1.57% | 5.0 |
| ユーロ/円 | 5.91% | 5.07% | 4.50% | 14.6 |
| ポンド/円 | 8.18% | 6.51% | 5.85% | 24.1 |
米ドル/円の5分足でも、38回に1回は4銭を超えるスプレッドで入っています。99%点は8.3銭で、中央値の17倍です。
固定値のバックテストは、この38回に1回を毎回同じ値に均してしまいます。平均を置けば総額は合いますが、「利確幅より広いスプレッドで入る回がある」ことは消えます。
平均か中央値か(前の記事の補足)
前の記事では、平均は裾に引っ張られるので避けたほうがよいと書きました。この点は、測り直して見方を改めました。
- 1回あたりの典型的な値としては、たしかに平均は実感より大きく出ます。ほとんどの回は中央値の近くで入るためです
- 一方で、払う総額は「回数×平均」です。時間帯を選ばずに入るEAなら、固定値に平均を置くと総額が合い、中央値を置くと1.1〜1.8倍少なく見積もります
どちらが正しいかではなく、何を合わせたいかで決まる話でした。前の記事は「平均を置くと短期の戦略が不当に不利になる」と書きましたが、総額で見るなら、不当ではなく実際に払っている額です。
実務でどう使うか
- **具体的な数値は示しません。**ペアも足も、約定する時間帯もEAによって違います。決めるのはご自身です
- **固定値に中央値を置いているなら、総額が少なく出ていると知っておいてください。**この7ペアでは1.1〜1.8倍でした。自分のペアでも、平均と中央値の両方で回すと振れ幅が分かります
- 時間フィルタの境界を確かめてください。「NY17時台は取引しない」というフィルタでも、17時台に閉じた足のシグナルで18時00分の始値に入れば、ロールオーバーの広さを払います。フィルタが「シグナルの時刻」と「約定の時刻」のどちらに掛かっているかで結果が変わります
- 夏時間では、NY17時は日本時間の朝6時、NY18時は7時です(冬時間は1時間遅れ)。季節で動くことはサマータイムで検証は1時間ずれるに書きました
- **足の長さを変えたら、コストも変わります。**同じロジックを5分足から1時間足に移すと、米ドル/円では始値のスプレッドが平均で14%上がりました(0.80→0.91銭)
- 時間帯ごとのコストは時間帯別コスト計算機(TOOL-003)で確認できます
データの見方(方法と限界)
- 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、変動スプレッド系です。国内店頭FXで主流の「原則固定」とは水準も形も違います。絶対値は業者によって違います
- 「分の最初のティック」を始値の代理にしています。その分にティックが無ければ数えていません。ロールオーバー直後は値がつかない分が多く、とくに円のクロスでは17時00分にティックのある平日は4割ほどしかありませんでした(ポンド/円)。実際の足はその数分後の、もっと広いティックで開くはずです。円のクロスの1時間足は低めに出ている可能性があります
- 約定は始値がついた瞬間とは限りません。数秒遅れれば別のスプレッドを払います
- **スリッページは含みません。**スプレッドだけの話です
- 中央値は0.1刻みでしか出ていません(データの最小単位)。「平均÷中央値」の倍率は粗い値です
- 経済指標の除外は、指標名と時刻の登録に依存します。カレンダーに無い発表は除けていません
- 7ペアの3年分です。将来も同じ形になることは示していません
まとめ
- EAが払うのは足の始値のスプレッド。平均は中央値の1.1〜1.8倍だった
- 7ペア中5ペアで1時間足がいちばん高い
- 原因は、ロールオーバーの広がりがNY18時00分まで残ること。18時01分に大きく下がる
- ロールオーバーの前後を除けば、00分はほかの分と同じ。30分の高さは経済指標だった
- 固定値では、38回に1回来る4銭超を表せない(米ドル/円・5分足)
時間帯の偏りに加えて、足の境目に当たるかどうかでも払う額が変わっていました。とくにロールオーバーを避けたつもりのEAが、18時00分の始値で入っていることは、設定を見ただけでは気づきにくい点だと思います。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(2023年8月25日〜2026年8月23日、7通貨ペア)と、同ソフトに付属する経済指標カレンダー(2026年8月26日取得)。集計スクリプトは自作
- 前の記事: バックテストのスプレッドをいくらに置くか(当サイト)
- 時間帯プロファイル: スプレッドが開くのは1日1時間(当サイト)
- 季節による移動: サマータイムで検証は1時間ずれる(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の設定値や手法を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。