資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-04

祝日のスプレッドは開かなかった — 減っていたのは値段ではなく「値がつく回数」だった

「祝日は市場参加者が少ないので、スプレッドが開きやすい」

よく言われる話です。週末ギャップと祝日でも、仕組みとしては書きました。

実際に開くのかを、3年分のティックで確かめました。データの配信元に付属する経済指標カレンダーには、祝日が2,350件入っています。「どの国がいつ休みか」が機械的に分かるので、突き合わせられます。

結果は、言われているのとは違う形でした。

結論

  • スプレッドの中央値は、祝日でもほとんど変わりませんでした(1.00〜1.05倍)。※ただしクリスマスと元日は例外です(限界の項を参照)
  • かわりに減っていたのは1日あたりに値がつく回数です。両国とも休みの日は、平常の**24〜44%**まで落ちました
  • **90%点(悪い側)は広がる場合があります。**英ポンド/円は片側の国が休みの日に1.4倍、ユーロ/米ドルは両国とも休みの日に1.5倍
  • 値がつかない時間も伸びます。ユーロ/米ドルでは、上位0.1%の間隔が32秒から111秒になりました
  • つまり祝日のリスクは「スプレッドが開く」ではなく「値がつきにくくなる」形で出ています
  • 中央値のスプレッドだけを見ていると、祝日は普通の日に見えます

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティックと、同ソフトに付属する経済指標カレンダー
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
  • 対象: 米ドル/円、ユーロ/米ドル、英ポンド/円
  • 祝日の判定: カレンダーの祝日行(Bank Holiday 等)を通貨ごとに集めました。通貨ペアの両側の国を見ます
  • 区分: 「どちらも平日」「片側の国だけ休み」「両国とも休み」の3つ
  • **週末は除いています。**祝日でなくても休みなので、混ぜると意味が変わります

3年間の内訳です。

区分日数
どちらも平日707〜725日
片側の国だけ休み51〜65日
両国とも休み5〜9日

**両国とも休みの日は、3年で5〜9日しかありません。**この区分の数字は、そのつもりで読んでください。

結果1:スプレッドは変わらない

中央値です。

ペアどちらも平日片側だけ休み両国とも休み
米ドル/円0.6銭0.6銭(1.00倍)0.6銭(1.00倍)
ユーロ/米ドル0.3pips0.3pips(1.00倍)0.3pips(1.00倍)
英ポンド/円2.0銭2.1銭(1.05倍)2.1銭(1.05倍)

ほぼ動きません。

米ドル/円とユーロ/米ドルは、小数第1位まで完全に一致しました。英ポンド/円で0.1銭上がっただけです。

これは意外でした。ロールオーバー時は9〜26倍開き、米CPIの発表枠では2.7倍開くことを測ってきたので、祝日にも何か出ると思っていました。

結果2:値がつく回数は大きく減る

1日あたりのティック数です。

ペアどちらも平日片側だけ休み両国とも休み
米ドル/円120,81189,776(0.74倍)36,150(0.30倍)
ユーロ/米ドル79,03764,143(0.81倍)19,051(0.24倍)
英ポンド/円144,531116,610(0.81倍)62,942(0.44倍)

こちらははっきり減ります。両国とも休みなら、値がつく回数は平常の4分の1から半分以下です。

片側だけ休みでも、2〜3割減っています。

つまり市場は確かに薄くなっています。にもかかわらず、提示されるスプレッドは同じでした。

結果3:悪い側と「値がつかない時間」は伸びる

中央値では見えませんが、分布の端を見ると差が出ます。

スプレッドの90%点

ペアどちらも平日片側だけ休み両国とも休み
米ドル/円0.9銭1.0銭0.9銭
ユーロ/米ドル0.6pips0.7pips0.9pips(1.5倍)
英ポンド/円2.7銭3.8銭(1.4倍)3.1銭

値がつかない時間(直前のティックからの間隔、秒)

ペア区分99%点99.9%点
米ドル/円どちらも平日7秒22秒
両国とも休み11秒39秒
ユーロ/米ドルどちらも平日11秒32秒
両国とも休み25秒111秒
英ポンド/円どちらも平日6秒15秒
両国とも休み6秒17秒

ユーロ/米ドルで99.9%点が32秒から111秒へ、3.5倍に伸びました。1,000回に1回、2分近く値がつかないということです。

英ポンド/円ではほとんど変わっていません。ペアによって出方が違います。

なぜスプレッドが動かないのか

推測になりますが、筋は通ります。

スプレッドは値を出す側が決めている数字です。参加者が減っても、値を出す主体が「いつもと同じ幅で出す」と決めていれば、表示されるスプレッドは動きません。

一方、値がつく回数は実際に取引や気配の更新が起きた回数です。こちらは参加者の数を直接反映します。

つまり、この2つは別のものを測っています。スプレッドはなぜ変動するのかで書いたとおり、「原則固定」の配信では、流動性の低下がスプレッドの拡大ではなく約定拒否という形で出ることがあります。今回見えたのは、その手前の状態と考えると理解しやすくなります。

「流動性が下がる」と「スプレッドが開く」は、同じことではありませんでした。

実務でどう使うか

  • **祝日にスプレッドを見て「今日は普通だ」と判断しないでください。**中央値は普通に見えます
  • **見るなら値がつく回数のほうです。**祝日は平常の3〜7割、両国とも休みなら4分の1まで落ちます
  • **指値・逆指値の挙動が変わる可能性があります。**値がつかない時間が伸びるということは、注文が反応するまでの時間が伸びるということです(約定とスリッページの仕組み)
  • 両国とも休みの日は年に2〜3日しかありません。カレンダーで事前に分かります
  • **ペアによって出方が違います。**英ポンド/円は値がつかない時間がほとんど伸びませんでした。自分の取引ペアで確かめてください
  • 祝日より、毎日のロールオーバーのほうがスプレッドとしては桁違いに大きいままです(時間帯別コスト計算機)

データの見方(方法と限界)

  • **★中央値はティックの数で重み付けされています。**ティックが少ない日ほど、中央値への寄与が小さくなります。**つまり「最も静かな日」ほど、この数字に反映されていません。**あとで年末年始を日別に測ったところ、**12月25日と1月1日だけはティックが平常の2〜6%まで落ち、スプレッドも2〜5.7倍(90%点で10倍超)**になっていました。「両国とも休み」の中にこうした極端な日が混ざっていても、中央値はほとんど動きません。この記事の「祝日でも変わらない」は、普通の祝日についての話だと読んでください
  • 両国とも休みの日は3年で5〜9日です。この区分の数字は参考程度に読んでください。特に英ポンド/円の5日は、たまたまの可能性があります
  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません。別の配信元では違う可能性があります
  • **祝日カレンダーの提供元は公開されていません。**どの日を祝日として登録しているかの基準は分かりません
  • **日付はUTCで区切っています。**市場の1日はニューヨーク17時で切れるので、UTCの日付とは2〜3時間ずれます。祝日カレンダーが日付単位なのでこう揃えました
  • **「値がつかない時間」の最大値は使いませんでした。**市場のクローズ時間が混ざるためです。分離していません
  • 変動スプレッド系の配信です。国内店頭FXで主流の「原則固定」とは性質が違います
  • **半休(取引時間が短縮される日)は区別していません。**クリスマスイブなどは通常の祝日と別の扱いのはずですが、カレンダー上は分けられませんでした

まとめ

  • 祝日でもスプレッドの中央値はほぼ変わらない(1.00〜1.05倍)
  • **値がつく回数は大きく減る。**両国とも休みなら平常の24〜44%
  • 90%点と「値がつかない時間」は伸びる場合がある(ユーロ/米ドルで99.9%点が3.5倍)
  • 祝日のリスクは「開く」ではなく「値がつきにくくなる」形で出る
  • スプレッドだけ見ていると気づけない

「流動性が下がる」という言葉を、スプレッドの数字で確かめようとすると失敗します。別のものを見る必要がありました。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。