資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-07

プロの予想はどれくらい当たるのか — 測る前に、カレンダーの列がヘッダーと逆だと分かった

経済指標カレンダーには、たいてい**「予想」**が載っています。エコノミストの見通しを集計したもので、コンセンサスとも呼ばれます。

発表の場面では「予想を上回った」「下回った」という言い方をします。つまり予想は基準として使われています。

では、その予想はどれくらい当たるのでしょうか。

手元のカレンダーには、19年分・5万8千件の「結果と予想の組」が入っていました。測れます。

……と思ったのですが、測り始める前に足を止めることになりました。

結論

  • 数値の列が、ヘッダーの記載と逆順でした。「結果」だと思って読んでいた列は「前回」でした
  • 直したうえで測ると、予想は「前回の値をそのまま使う」より誤差が3割小さい(誤差の比の中央値0.69)
  • 政策金利はほぼ当てます(90〜100%)。ただし中央銀行が事前に示唆するので、当たって当然です
  • 政策金利を除いた重要度の高い146系列のうち、「前回そのまま」に負けているのは3系列だけでした
  • 上振れと下振れはほぼ半々(48.2%対51.8%)。「予想は楽観に偏る」とは、この差では言えません

まず:列がヘッダーと逆だった

この記事のいちばん大事な部分かもしれないので、先に書きます。

カレンダーのデータは、ヘッダーの無いCSVです。エクスポートしたときに付くヘッダーには、こう書いてあります。

… <PRIORITY>,<ACTUAL>,<CONSENSUS>,<PREVIEWS>

素直に読めば「結果・予想・前回」の順です。実際は逆でした。

どうやって気づいたか

「前回」の値が、前の回の「結果」と一致するはずだと考えました。改定のない指標なら、これは完全に一致します。

確かめたところ、一致率は**6.5%**しかありませんでした。低すぎます。

かわりに、「前回」が次の回の「結果」と一致する割合を見ると**55.6%**でした。時間の向きが逆です。

決め手になったのは、改定されない指標

中国の製造業PMIを並べてみます。この指標は後から改定されません。

日付1列目2列目3列目
2007-01-0155.3–54.8
2007-02-0154.8–55.1
2007-03-0255.1–53.1

1列目が、前月の3列目と完全に一致しています。

「前回の値は、前月の結果と等しい」わけですから、3列目が結果、1列目が前回です。ヘッダーの記載とは逆でした。

同じ検査を全系列でやると、10回以上ある182系列すべてがこの向きで、逆向きの系列はゼロでした。残る不一致は、統計そのものの改定を反映しています。

なぜヘッダーを信じなかったか

このカレンダーのヘッダーは、前にも間違っていたからです。

日付と時刻の列でも、ヘッダーは <TITLE>,<COUNTRY>,<TIME> の順だと書いているのに、実データは <TIME>,<TITLE>,<COUNTRY> の順でした。別の記事にも書きましたが、一度嘘をついた説明書は、二度目も疑うべきです。

なお、この間違いは他の記事には影響していません。重要度の記事や時刻の精度の記事は、時刻・指標名・重要度しか使っておらず、数値の列には触れていないからです。確認済みです。

結果1:予想は「前回そのまま」より3割正確

予想の良し悪しを測るには、比べる相手が要ります。

いちばん素朴な予想は「前回と同じ値になるだろう」というものです。何も考えなくても作れます。プロの予想がこれに勝てなければ、意味がありません。

指標ごとに次の比を出しました。

誤差の比 =(結果と予想の差の平均)÷(結果と前回の差の平均)

1未満なら、予想のほうが正確ということです。

誤差の比
10%点0.31
25%点0.46
中央値0.69
75%点0.86
90%点0.98
最大1.47

中央値0.69。予想は、素朴な予想より誤差が3割ほど小さいということです。

そして316系列のうち292系列(92.4%)で、予想のほうが正確でした。

結果2:政策金利は当たって当然

「結果と予想がちょうど一致した割合」を見ると、極端な差が出ます。

指標一致率回数
スイスの政策金利100%35
英国の政策金利96%194
米国のFF金利96%83
ECBの主要政策金利95%188
カナダの政策金利92%156
豪州の政策金利88%208

ほぼ外しません。

ただしこれは予想が優れているという話ではありません。中央銀行が事前に方針を示唆するからです。予想する側は、それを読んでいます。

逆に、一致率が0%の指標もたくさんあります。雇用者数の変化、住宅着工、新規融資、景況感指数など。連続した数値なので、小数点まで一致することがそもそも稀です。

つまり一致率は、指標の性質を見ているだけで、予想の良し悪しの指標にはなりません。誤差の比のほうを見る必要があります。

結果3:予想が効く指標と、効かない指標

政策金利を除いた、重要度の高い146系列で見ます。

予想がよく効いている(誤差の比が小さい)

比指標
0.12英国のGDP速報
0.17NZの経常収支
0.18米国のGDP速報
0.19スペイン・ドイツのGDP速報
0.20中国のGDP
0.22日本のGDP速報

GDPが並びました。理由は分かりやすくて、GDPはすでに公表された月次データの積み上げだからです。発表前にかなりの部分が分かっています。

予想が効いていない(比が1に近い、または1を超える)

比指標
1.08米国の求人件数(JOLTS)
1.06米国の製造業PMI確報
1.00英国の製造業PMI確報
1.00英国の貿易収支
0.98米国の新築住宅販売

「確報」が2つ入っているのが目を引きます。これは筋が通っていて、確報の「前回」は速報値です。速報がすでに正確なので、それをそのまま使うのが最強の予想になります。予想が勝てないのは当然です。

**米国の求人件数だけは、比が1.08で明確に負けています。**予想するより、前回の値をそのまま使ったほうが誤差が小さいということです。理由は分かりません。

なお、政策金利を除いた146系列のうち、比が1以上なのは3系列だけでした。全体として予想は機能しています。

結果4:上振れと下振れは、ほぼ半々

「エコノミストの予想は楽観に偏っている」という言い方を見かけます。確かめました。

割合
結果 > 予想(上振れ)41.6%
結果 = 予想13.8%
結果 < 予想(下振れ)44.6%

一致した分を除くと、**上振れ48.2% / 下振れ51.8%**です。

下振れがわずかに多いものの、19年・5万8千件でこの差です。「楽観に偏っている」と言えるほどの偏りではありませんでした。

実務でどう使うか

  • **予想は基準として使えます。**素朴な予想より3割正確でした
  • ただし「当たる」ことと「取引に使える」ことは別です。予想が当たるということは、その情報がすでに価格に入っている可能性が高いということでもあります
  • 政策金利の一致率90%超は、予想の精度ではなく中央銀行の情報発信を見ています
  • **確報値は予想を見る意味が薄そうです。**速報値がそのまま答えに近いためです
  • **一致率で予想の良し悪しを判断しないでください。**指標の性質を見ているだけです
  • そもそも指標発表でスプレッドが開く時間は10分ほどで、重要度のラベルはあてになりません。コストの観点では、指標より時間帯のほうが効きます

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 に付属する経済指標カレンダーで、提供元は公開されていません。予想値を誰がどう集計したのかは分かりません
  • **★予想値が発表後に書き換えられていないかは、確かめられていません。**手元にあるのは2026年8月26日に取得した1回分だけで、比べる相手がありません。もし書き換えられていれば、この記事の精度は過大評価になります。ただし一致率が13.8%にとどまっていることは、そのままの書き換えはされていないことを示唆します
  • 単位が指標ごとに違うので、系列をまたいで足し引きしていません。系列ごとに比を出してから、系列間で比べています
  • 結果・予想・前回が30回以上そろっている317系列だけを使いました
  • 改定の扱いは指標によって違います。「前回」が改定後の値になっている指標では、比の分母が変わります
  • 期間は2007年〜2026年8月です。この19年に固有の話である可能性があります

まとめ

  • 数値の列がヘッダーの記載と逆順だった。改定されない指標を使って確定させた
  • 予想は「前回そのまま」より誤差が3割小さい(比の中央値0.69)。92.4%の系列で勝つ
  • 政策金利はほぼ当てるが、それは中央銀行が事前に示唆するから
  • GDPは予想が効き(比0.12〜0.22)、確報値と求人件数は効かない
  • 上振れ48.2% / 下振れ51.8%。「楽観に偏る」とは言えない

いちばん時間がかかったのは、測ることではなく、何が書いてあるかを確かめることでした。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や指標の利用を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。