資料室 ── データ品質 ── 更新 2026-09-07
経済指標カレンダーの時刻はどれだけ正確か — 発表は分単位で合っていたが、「会見」だけは6分ずれた
経済指標カレンダーを、自動売買のフィルタに使う人がいます。「この時刻の前後は取引しない」という使い方です。
そのとき前提になるのが、カレンダーの時刻が正しいことです。ずれていれば、避けたつもりで避けられていません。
**確かめました。**3年分のティックと、同じ配信に付属する経済指標カレンダーを突き合わせています。
結果は、ほとんど合っていたというものでした。ただし1種類だけ例外があり、その例外には理由がありました。
結論
- 重要度が高い発表枠の72.6%で、最も値が動いた分は記載時刻ちょうどでした(±1分以内で77.7%)
- データの発表は例外なく0分でした。米CPI、雇用統計、ADP、ISM、失業保険申請、FOMC議事要旨——すべて中央値0分です
- ずれていたのは記者会見と要人発言だけでした。日銀会見は+6分、FOMC会見は+4分(ユーロ/米ドルでは+5分)
- 早すぎる方向のずれは、ひとつも見つかりませんでした
- おまけの発見として、会見は価格が動くのにスプレッドはほとんど開きませんでした
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティックと、同ソフトに付属する経済指標カレンダー
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
- 対象: 米ドル/円(重要度2以上の発表枠712件)、ユーロ/米ドル(対照)
- やり方: 発表枠ごとに、記載時刻の前後10分について1分ごとの値幅(その分の中値の最大−最小)を出し、最大になった分を探します。時刻が正しければ、これは0分に集まるはずです
**スプレッドではなく値幅で見ました。**知りたいのは「実際に価格が動き出した時刻」だからです。
反応が無かった枠は除いています。値幅が平常の2倍に届かない枠は、そもそも動いていないので、ずれを測れません。712件のうち685件(96%)には反応があり、20件は反応がありませんでした。
発表枠という単位について
経済指標の「重要度」は当てになるかでも書いたとおり、主要な指標は必ず他の指標と同時に発表されます。ここでも「指標」ではなく「その分に出た指標の組」を1つの単位として数えています。
結果1:72.6%が記載時刻ちょうど
値幅が最大になった分の分布です(米ドル/円)。
| 記載時刻からのずれ | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| -10〜-1分(合計) | 27 | 3.9% |
| 0分 | 497 | 72.6% |
| +1分 | 31 | 4.5% |
| +2分 | 24 | 3.5% |
| +3分 | 19 | 2.8% |
| +4〜+10分(合計) | 87 | 12.7% |
ユーロ/米ドルでも**71.2%**でした。ほぼ同じです。
**3件に2件以上が、記載時刻ちょうどの1分で最大になっています。**カレンダーの時刻は、実用上は信用してよさそうです。
結果2:データの発表はすべて0分だった
回数が多い発表枠を並べます(米ドル/円、ずれの中央値)。
| 発表枠 | 回数 | ずれの中央値 |
|---|---|---|
| ADP雇用統計 | 33 | 0分 |
| 製造業PMI速報(他1件と同時) | 30 | 0分 |
| 米雇用統計(他2件と同時) | 29 | 0分 |
| 新規失業保険申請件数 | 25 | 0分 |
| 日銀総裁の記者会見 | 24 | +6分 |
| FOMC議長の記者会見 | 23 | +4分 |
| 米CPI(他2件と同時) | 21 | 0分 |
| ISM非製造業景況指数 | 21 | 0分 |
| FOMC議事要旨 | 20 | 0分 |
| 大統領の発言 | 18 | +3分 |
| 消費者信頼感指数速報(他1件と同時) | 16 | 0分 |
| コアPPI(他1件と同時) | 16 | 0分 |
きれいに分かれました。
- 数字が出るもの(統計の発表・議事要旨)はすべて0分
- 人が話すもの(会見・発言)だけが**+3〜+6分**
ユーロ/米ドルでも同じでした。ECB会見が+5分、FOMC会見が+5分です。
理由ははっきりしている
会見の記載時刻は「開始時刻」だからです。
統計の発表は、決められた時刻に数字が出ます。その瞬間に価格が動きます。一方、会見は開始時刻に始まって、そこから話が進みます。相場を動かす発言が出るのは、始まって数分後です。
日銀会見が+6分、FOMC会見が+4分というのは、冒頭の説明が終わって中身に入るまでの時間と考えると自然です。
なお**「パウエル議長が話す」という枠は0分**でした(24回)。これは会見ではなく講演の枠で、開始と同時に本題に入るためだと考えられます。ただしこれは推測です。
例外もありました。ユーロ/米ドルでドイツCPI速報が+2分(8回)です。数字の発表なのにずれています。理由は分かりません。
結果3:早すぎるずれは見つからなかった
念のため書いておきます。
5回以上ある発表枠のうち、ずれの中央値が負(記載時刻より前)のものは、ひとつもありませんでした。
「発表前に動き出している」という現象は、この3年・このデータでは観測できませんでした。個別の回では-1分や-2分に最大が来ることもありますが(合計3.9%)、特定の指標に偏っていません。
結果4:会見は価格が動くのにスプレッドが開かない
測っている途中で気づいたことです。
会見のずれが+6分だと分かったとき、私は自分の前の記事を疑いました。経済指標の「重要度」は当てになるかでは、記載時刻の前後5分でスプレッドを測っています。ピークが+6分なら、窓の外に出てしまいます。
そこで前後20分まで広げて測り直しました。
| 発表枠 | 記載時刻(0分)のスプレッド | ピーク | 平常比 |
|---|---|---|---|
| 日銀会見 | 0.6銭 | +8分で0.8銭 | 1.3倍 |
| FOMC会見 | 0.7銭 | +8分で0.8銭 | 1.3倍 |
| 大統領の発言 | 0.6銭 | +11分で0.7銭 | 1.2倍 |
**窓を4倍に広げても、1.3倍にしかなりませんでした。**しかも山の形がありません。+2分から+12分までずっと0.7銭前後で、なだらかです。
つまり前の記事の数字は間違っていませんでした。会見の順位が低かったのは窓のせいではなく、実際にスプレッドが開いていないからです。
平常時が0.6銭、米CPIの発表枠が1.6銭(2.7倍)であることを考えると、**会見は「開かないイベント」**だと言えます。
価格は動いています(だから値幅の最大が+6分に出る)。**でもスプレッドは開きません。**この2つは別のものを測っています。祝日を測ったときにも同じ形の乖離が出ました。
理由を考えると筋は通ります。統計の発表は一瞬で新しい情報が出るので、値を出す側は一時的に手を引きます。会見は情報が少しずつ出てくるので、値を出し続けられます。
実務でどう使うか
- **データの発表をフィルタする場合、記載時刻をそのまま使って構いません。**3件に2件以上がその分で最大でした
- **会見と要人発言は、記載時刻から+15分くらい見てください。**ピークが+6分、スプレッドの山が+8分あたりまで続きます
- 会見をスプレッド目的で避ける必要は薄そうです。1.3倍でなだらかでした。ただし価格は動きますので、ポジションを持つかどうかは別の判断です
- 「発表前に漏れている」という前提で早めに閉じる必要は、このデータでは見つかりませんでした
- カレンダーの時刻が正しいということは、時間帯別の実測や避けるべき時間の話の前提も保たれている、ということです
データの見方(方法と限界)
- 1つの配信元のデータです。ティックもカレンダーも同じソフトに付属するものです。別のカレンダーは別の時刻を書いているかもしれません
- **カレンダーの提供元は公開されていません。**時刻を誰がどう決めているかは分かりません
- **「動き出した時刻」の定義は私が決めたものです。**1分ごとの値幅が最大になった分を使いました。別の定義(たとえば最初に平常の2倍を超えた分)なら、違う数字が出ます
- **反応が無かった20件を除いています。**除かないと、ノイズの最大値を拾って分布が平らになります
- 重要度2以上の枠だけです。重要度が低い枠は反応が小さく、ずれを測れません
- **秒単位では測っていません。**1分の粒度なので、「30秒ずれている」といった話は分かりません
- 会見の理由(+6分は冒頭説明の長さ)は推測です。確かめていません
まとめ
- 重要度が高い発表枠の72.6%で、値幅が最大になったのは記載時刻ちょうどの分だった
- **データの発表は例外なく0分。**米CPI、雇用統計、ADP、ISM、議事要旨——すべて
- ずれたのは会見と要人発言だけ(日銀+6分、FOMC+4〜5分、ECB+5分)。記載時刻が「開始時刻」だから
- 早すぎる方向の系統的なずれは無かった
- 会見は価格が動くのにスプレッドが開かない(1.3倍でなだらか)。前の記事の数字は窓のせいではなかった
自分の前の測定を疑って測り直したら、疑いのほうが外れていました。こういう確かめ方の話を別に書いています。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(2023年8月25日〜2026年8月23日)と、同ソフトに付属する経済指標カレンダー(2026年8月26日取得)。集計スクリプトは自作
- 同じカレンダーを使った測定: 経済指標の「重要度」は当てになるか / 祝日のスプレッドは開かなかった / 1日の85%は「無風」だった(当サイト)
- 発表の瞬間の実測: 米雇用統計でスプレッドはどれだけ開くか(当サイト)
- データの検算の話: 集計スクリプトは、間違っていてもエラーを出さない / ForexTesterのデータはどこまで信用できるか(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。