資料室 ── データ品質 ── 更新 2026-09-08

1分足で検証すると何が失われるのか — 「足の中の順序」問題は思ったより小さく、失われていたのは別のものだった

バックテストの多くは1分足を最小単位にします。1分足が持っている情報は、始値・高値・安値・終値の4つだけです。

ここから、よく知られた問題が出てきます。

損切りと利確の両方が同じ1分足の値幅に入っていたとき、どちらが先に来たのか分からない。

1分足には順序の情報がないので、検証ソフトは仮定で埋めるしかありません。「悪いほうが先に来たとみなす」「高値が先とみなす」など、ソフトによって扱いが違います。

**これがどれくらい効くのかを数えました。**ティックがあれば、本当の順序が分かります。

結果は予想と違いました。この問題は小さく、かわりに別のものが失われていました。

結論

  • **損切り・利確が±10銭(pips)なら、判定不能な取引は0.2%**でした。ほぼ効きません
  • ただし±1銭では13.7%(英ポンド/円では24.2%)。狭くするほど急に効いてきます
  • 判定不能だった足で実際にどちらが先だったかを見ると、ほぼ50:50でした。つまり検証ソフトの仮定は当たるも八卦です
  • 1分足が本当に失っているのはスプレッドです。1分足に売買スプレッドは入っていません。米ドル/円の平常時は0.6銭ですが、ロールオーバー時は8.9銭。±10銭の取引なら、幅の89%がスプレッドで消える瞬間があります
  • 中央値で66件のティックが、4つの数字に潰されています
  • ペアによる違いは、R =(利確幅 + 損切り幅)÷ 1分足レンジの中央値という1つの比率でほぼ説明がつきました。R が4以上なら判定不能は1%未満です

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
  • 対象: 米ドル/円、ユーロ/米ドル、英ポンド/円
  • やり方: 5分ごとに建玉を作り、建値の上下に同じ幅で損切り・利確を置きます。どちらかに触れた最初の1分足を探し、その足が**両方に触れていたら「判定不能」**と数えます。ティックを見れば実際の順序が分かるので、それも記録します
  • 価格は中値((bid+ask)÷2)を使いました。ここで見たいのは到達順序であって売買コストではないためです
  • 1日たっても決着しない取引は「未決着」として除いています

結果:判定不能はどれくらいあるか

同じ足の中で損切りと利確の両方に触れた取引の割合です。

損切り・利確の幅米ドル/円ユーロ/米ドル英ポンド/円
±113.7%4.1%24.2%
±23.3%0.6%6.5%
±31.2%0.2%2.4%
±50.4%0.1%0.6%
±100.2%0.2%0.2%
±200.3%0.2%0.1%

(単位は対円ペアが銭、ユーロ/米ドルがpips。1ペアあたり約22万件の取引を数えました)

±10以上ではどのペアも0.2%前後です。1,000回に2回です。

ところが**±1では桁が変わります**。英ポンド/円で24.2%、つまり4回に1回が判定不能です。

理由は単純で、1分間の値動きの幅と、損切り幅の関係だからです。損切り幅が1分の値動きより狭ければ、同じ足の中で両方に届いて当たり前です。英ポンド/円が最も高いのは、最も動くペアだからです。

通貨ペアの違いは、1つの比率で説明がつく

そうであれば、ペアの違いは「1分足のレンジ」で割れば消えるはずです。確かめました。

まず、1分足のレンジ(高値−安値)の中央値です。

1分足レンジの中央値
米ドル/円1.9銭
ユーロ/米ドル1.1pips
英ポンド/円2.8銭

これで割った比率を R =(利確幅 + 損切り幅)÷ 1分足レンジの中央値 とします。損切りと利確の合計幅が、1分足の値動き何個ぶんか、という数字です。

R の小さい順に並べ替えます。

Rペアと幅判定不能
0.7英ポンド/円 ±124.2%
1.1米ドル/円 ±113.7%
1.4英ポンド/円 ±26.5%
1.8ユーロ/米ドル ±14.1%
2.1米ドル/円 ±23.3%
2.1英ポンド/円 ±32.4%
3.2米ドル/円 ±31.2%
3.6英ポンド/円 ±50.6%
3.6ユーロ/米ドル ±20.6%
5.3米ドル/円 ±50.4%
5.5ユーロ/米ドル ±30.2%
7.1英ポンド/円 ±100.2%
9.1ユーロ/米ドル ±50.1%
10.5米ドル/円 ±100.2%

ペアが混ざったまま、きれいに1本の曲線になりました。

特に R=3.6 のところを見てください。英ポンド/円の±5と、ユーロ/米ドルの±2です。**まったく違うペア・まったく違う値幅なのに、判定不能は両方とも0.6%**でした。R=2.1 の2行も近い値です。

つまり、判定不能の割合を決めているのは通貨ペアでも値幅でもなく、この比率だけです。

目安にすると、こうなります。

R判定不能見方
4以上1%未満気にしなくてよい
2〜41〜3%一応確認する
1.5未満10%超1分足で検証してはいけない

**戦略の時間軸は関係ありません。**日足の戦略でも損切りを極端に狭くすればRは小さくなりますし、5分足の戦略でも損切りが広ければRは大きくなります。見るべきはRです。

判定不能な足では、実際どちらが先だったか

ここがいちばん知りたいところでした。

幅米ドル/円ユーロ/米ドル英ポンド/円
±150.6%50.2%50.2%
±251.7%49.6%50.5%
±350.4%49.7%50.3%
±551.3%45.3%50.2%

「上が先だった割合」です。**ほぼ50%**でした。

つまり判定不能な足では、どちらが先かは実質コイン投げです。検証ソフトがどんな仮定を置いても、その仮定は半分外れます。

ここから2つ言えます。

  • **期待値はあまり動きません。**半分当たって半分外れるので、平均すれば相殺されます
  • ただし分散は増えます。「常に悪いほうが先」と仮定するソフトなら成績は悲観側に、「常に良いほうが先」なら楽観側にずれます

±10なら該当が0.2%なので、どちらにずれても影響は0.1%程度です。±1なら13.7%の半分、約7%の取引の勝敗が仮定で決まります。これは無視できません。

※ 表の一部(±5のユーロ/米ドル45.3%、±20の各ペア)は50%から外れていますが、該当件数が数百件しかありません。件数が少ないところの数字は読まないでください。

本当に失われているもの:スプレッド

ここが今回の主題です。

**1分足に売買スプレッドは入っていません。**始値・高値・安値・終値は、たいてい売値か中値の片方だけです。買値との差は、どこにも書かれていません。

そしてスプレッドが開くのは1日1時間で測ったとおり、スプレッドは一定ではありません。

米ドル/円で比べます。

スプレッド±10銭の取引に対する割合
平常時0.6銭6%
ロールオーバー時(分単位のピーク)8.9銭89%

**平常時なら幅の6%で済むものが、ロールオーバーの数分間では89%になります。**損切り幅とほぼ同じです。

判定不能の問題が0.2%だったことと比べてください。桁が3つ違います。

「足の中の順序が分からない」はよく語られる問題です。ですが、同じデータで測った限り、スプレッドを固定値で置いていることのほうが、はるかに大きな誤差でした。

固定スプレッドで検証するとどうずれるかはバックテストのスプレッドをいくらに置くかに書いています。

もうひとつ:66件が4つの数字になっている

1分足1本あたりのティック数を数えました(米ドル/円)。

ティック数
10%点17
中央値66
90%点169

中央値で66件の値動きが、4つの数字に潰されています。

これは「情報が減る」というだけの話ではありません。指値・逆指値が実際にどう約定するかは、この66件の並びの中で決まります(約定とスリッページの仕組み)。1分足の検証は、そこを4点で近似しています。

なお、この4点への潰し方は粒度の問題そのものでもあります。1〜3分だけの現象は、1分足でもぎりぎり見えますが、1時間足では完全に消えます。

実務でどう使うか

  • まず R を計算してください。(利確幅+損切り幅)÷ 1分足レンジの中央値です。4以上なら順序の問題は無視して構いません
  • **戦略の時間軸で判断しないでください。**日足の戦略でも損切りが狭ければ危険です。効くのはRだけでした
  • **スキャルピング(±1〜3)の検証結果は、順序の仮定に依存します。**検証ソフトがどちらを先とみなしているかを確認してください。仮定を反転させて成績がどう変わるかを見るのが早いです
  • **スプレッドの置き方のほうを先に見直してください。**固定値で置いているなら、そこが最大の誤差要因です
  • **1分足でスキャルピングを検証するのは、原理的に無理があります。**判定不能が13〜24%あり、その勝敗はコイン投げです。ティックで検証するか、その幅を避けるかのどちらかです
  • 検証の条件は先に決めて書いておいてください(結果を見る前に、合否の基準を書いておく)。「順序の仮定を変えたら成績が良くなった」は、選び直しの一種です(たくさん試して一番良いのを選ぶと、なぜ嘘の好成績が生まれるのか)

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません
  • 3通貨ペアだけです。ボラティリティの大きいペアほど判定不能が増えるので、他のペアは英ポンド/円と米ドル/円の間のどこかに来るはずですが、確かめていません
  • **建玉は5分ごとに機械的に作りました。**実際の戦略は特定の局面で建てるので、判定不能の割合は変わります。特に指標発表時を狙う戦略なら高くなるはずです
  • 1日で決着しない取引は除いています。±20銭では約1.2万件が未決着でした
  • 手数料・スリッページ・約定拒否は考えていません。順序とスプレッドだけの話です
  • 損切りと利確を同じ幅にしています。非対称なら結果は変わります
  • R の目安は3ペア14通りの組み合わせから引いたものです。もっと多くのペア・幅で確かめれば、境目の数字は動く可能性があります

まとめ

  • 「1分足では足の中の順序が分からない」は本当だが、±10以上なら該当は0.2%
  • **±1では13.7〜24.2%**まで跳ね上がる。狭いほど効く
  • 判定不能な足での実際の順序はほぼ50:50。仮定は半分外れる
  • 1分足が本当に失っているのはスプレッド。平常0.6銭が、ロールオーバー時は8.9銭。±10銭の取引なら幅の89%
  • 中央値66件のティックが4つの数字に潰されている
  • 通貨ペアの違いは R =(利確幅+損切り幅)÷1分足レンジ中央値 で説明できた。R≧4なら1%未満、R<1.5なら10%超

有名な問題より、地味な問題のほうが大きかったというのが今回の結論です。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引手法や製品を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。