資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-29

ユーロ/香港ドルはユーロ/米ドルと同じ動きで5.8倍のコスト — ペッグ通貨を含むペアを3年分のティックで測る

香港ドルは、米ドルに対して7.75〜7.85香港ドルの帯に固定されています。1983年から続く連動相場制(ペッグ)です。

そうだとすると、ユーロ/香港ドルはユーロ/米ドルに「ほとんど動かない数字」を掛けたもののはずです。

  • ユーロ/香港ドル = ユーロ/米ドル × 米ドル/香港ドル
  • 米ドル/香港ドルは 7.75〜7.85 の間しか動かない

**値動きが同じなら、払うコストはどうなっているのでしょうか。**手元の3年分のティックで2つを突き合わせました。

結論

  • 1分ごとの値動きは、ほぼ同じでした。1分リターンの相関は0.985、ばらつき(標準偏差)は1.302bpと1.299bpで、ほとんど一致します
  • **スプレッドは中央値で5.8倍(平均で5.3倍)でした。**ユーロ/香港ドル1.52bp、ユーロ/米ドル0.26bp。同じ動きに対して5倍以上払うことになります
  • **香港の取引時間に安くなるわけではありません。**むしろ日本時間10〜15時のほうが、欧州・NY時間より2割ほど高めでした。倍率は1日中5〜7倍のままです
  • 2つのティックの比から逆算した米ドル/香港ドルは、3年間7.747〜7.852に収まり、帯の両端(7.75と7.85)に張り付く時期がはっきり見えました。配信データの中でもペッグは守られていました
  • ただし、**3年間ペッグが守られたことは、今後も守られることを意味しません。**ペッグが外れるリスクは、このデータからは何も言えません

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
  • 銘柄: ユーロ/香港ドル(6,759万件)と、ユーロ/米ドル
  • 突き合わせ方: 各分の最後のティックの中値を両方から取り、2つの時刻の差が5秒以内の分だけを使いました(93万6,463分)
  • 米ドル/香港ドルの逆算: 手元に米ドル/香港ドルのティックは無いので、ユーロ/香港ドル ÷ ユーロ/米ドルで求めました
  • スプレッド: 各分の最初のティックのスプレッドを、**価格に対する比率(bp=0.01%)**で比べました。単位の違う2つのペアを同じ物差しに乗せるためです。分について等重みで数えています(ティック数で重みをつけると、値のつきにくい時間帯が小さく出るため)

結果1:値動きはほぼ同じ

ユーロ/香港ドルユーロ/米ドル
1分リターンの標準偏差1.302bp1.299bp
1分リターンの相関0.985
両方動いた分のうち、同じ向き94.3%

(比べた分数は81万9,712分。前後2つの分がどちらも突き合わせられた分だけ)

ばらつきは小数第2位まで同じです。ユーロ/香港ドルの値動きは、ほとんどがユーロ/米ドルの値動きでした。

相関が1にならないのは、米ドル/香港ドル自体が少し動くことと、2つのティックが完全に同じ瞬間ではないことの両方によります。どちらがどれだけかは切り分けていません。

結果2:スプレッドは5.8倍

両方にティックがあった109万8,948分で比べました。

平均中央値10%点90%点99%点
ユーロ/香港ドル1.824bp1.522bp1.128bp2.390bp8.359bp
ユーロ/米ドル0.344bp0.263bp0.093bp0.528bp2.576bp
差1.480bp1.278bp0.813bp2.046bp6.180bp

中央値で5.8倍、平均で5.3倍です。

ふだんの単位に直すと、ユーロ/香港ドルの中央値は約13pips(香港ドル建て)、ユーロ/米ドルは約0.3pipsです。桁が違って見えますが、これは香港ドル建ての価格が約8.7と大きいためで、比率で見た実際の差が5.8倍です。

値動きがほぼ同じなので、動く量に対するコストも、そのまま5倍以上になります。22銘柄を値動きで割って並べた記事でも、ユーロ/香港ドルは22銘柄中19位、ユーロ/米ドルは1位でした(あちらは測り方が違いますが、倍率は5.3倍でほぼ同じです)。

上乗せの理由は分かりません

「米ドル/香港ドルという2本目の取引が乗っている分」と考えたくなりますが、手元に米ドル/香港ドルのスプレッドのデータが無いので、上乗せ1.28bpのうちどれだけがそれで説明できるのかは確かめていません。ペアそのものの取引の薄さも効いているはずですが、これも推測です。

結果3:香港の時間帯に安くなるわけではない

「香港ドルなら、香港が開いている時間のほうが安いのでは」と考えて、日本時間の時刻別に並べました(日本時間は香港時間の1時間先です)。

日本時間ユーロ/香港ドル(中央値)ユーロ/米ドル(中央値)倍率
1〜2時1.19bp0.19bp6.2倍
6時4.53bp0.93bp4.9倍
7時3.61bp0.56bp6.5倍
9時1.87bp0.28bp6.8倍
10〜14時1.67〜1.74bp0.27bp6.2〜6.4倍
16時1.43bp0.26bp5.6倍
17〜23時1.39〜1.40bp0.19〜0.26bp5.4〜7.2倍
  • 香港の取引時間(日本時間10〜17時ごろ)のほうが、欧州・NY時間より2割ほど高い結果でした。予想は外れました
  • 倍率は1日中5〜7倍で、安くなる時間帯はありません
  • 最も広いのは、ほかの通貨ペアと同じ**ロールオーバーの時間(日本時間6〜7時)**です

時刻は日本時間で固定して数えたので、夏と冬でロールオーバーの時刻(6時/7時)が混ざっています。夏冬を分けて測ると、ピークは1時間ずれます。

結果4:逆算した米ドル/香港ドルは、帯の両端に張り付いていた

2つの比から出した米ドル/香港ドルの、月ごとの中央値です(抜粋)。

月中央値最小最大
2023年9月7.82737.81377.8468
2024年10月7.77077.76137.7783
2025年4月7.76017.75297.7856
2025年5月7.80887.74727.8445
2025年6月7.84957.84087.8518
2025年7月7.84997.84547.8524
2026年7月7.84147.83477.8450

分ごとの値を0.0005刻みで数えると、帯の両端に山ができていました。

  • 7.8490〜7.8505 に 5万2,542分(全体の5.6%)。2025年6〜8月に集中
  • 7.7495〜7.7510 に 2,947分。2025年5月の初め
  • その外側(7.7495未満・7.8505以上)は、合わせて18分だけ

帯の外に出た幅は、最も大きい分でも0.003弱(7.7472と7.8524)でした。隣の分との差の99%点(0.0006)よりは大きいものの、**18分は全体の0.002%**です。しかも最小と最大の2つは、どちらも米国の経済指標が出る直前の1分(日本時間21時29分)でした。2つのティックの時刻のずれが大きく効く瞬間なので、逆算の誤差である可能性が高いと考えていますが、確かめてはいません。

**ペッグの帯の両端は、配信データの中でも「壁」として見えました。**ユーロ/香港ドルのデータを使う検証で、この壁を前提にしてよいかの確認にはなります。

実務でどう使うか

  • **ユーロ/香港ドルの値動きは、ほぼユーロ/米ドルの値動きです。**両方で検証しても、独立した2回の試行にはなりません。同じ動きを、5倍のコストで2回見ているだけです
  • ユーロと米ドルの関係に賭けたいなら、同じ値動きをより安く取れるペアがある、ということは言えます。ただし、どのペアを選ぶかは取引の目的しだいで、これは推奨ではありません
  • 香港ドルを含むペアで時間帯を選んでコストを下げる余地は小さいです。倍率は1日中変わりませんでした
  • 米ドル/香港ドルが帯の端に張り付いている時期は、ユーロ/香港ドルの動きがユーロ/米ドルとさらに見分けにくくなります(米ドル/香港ドル側が動けないため)

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。スプレッドはこの配信のもので、実際に取引する業者のスプレッドとは違います
  • 米ドル/香港ドルは逆算値です。実際の米ドル/香港ドルのティックとは照合していません
  • 突き合わせは各分の最後のティックで、時刻差5秒以内に限っています。同じ瞬間の値ではないので、逆算値には誤差が乗ります
  • 相関0.985のうち、何が1との差を作っているか(米ドル/香港ドルの実際の動き/時刻のずれ)は切り分けていません
  • 上乗せ1.28bpの理由は確かめていません
  • 時間帯別は日本時間で固定しており、夏時間と冬時間が混ざっています
  • 3年分です。この間にペッグが外れる出来事はなく、外れるリスクについてこのデータは何も言えません
  • スワップは測っていません

まとめ

  • ユーロ/香港ドルとユーロ/米ドルは、1分の値動きがほぼ同じ(相関0.985、ばらつき1.302bpと1.299bp)
  • スプレッドは中央値で5.8倍(1.52bp 対 0.26bp)
  • **香港の取引時間に安くなるわけではない。**倍率は1日中5〜7倍
  • 逆算した米ドル/香港ドルは3年間7.747〜7.852。帯の両端に張り付く時期がはっきり見えた
  • 3年間守られたことは、今後の保証にはならない

ペッグ通貨を含むペアは、動かない1本を掛けたぶん、値動きは変わらずコストだけが乗っているという形でした。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の通貨ペアや取引を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。