資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-08

逆指値はどこまで滑りうるか — 1ティックの値飛びを1億件で測ったら、危ないのは1日1時間に集中していた

逆指値(ストップ)は、指定した値段で約定するとは限りません。価格がその水準を飛び越えてしまえば、次に値がついたところで約定します。

これが「滑る」と言われる現象です(約定とスリッページの仕組み)。

どれくらい飛ぶのかを測りました。連続する2つのティックの間で、価格がどれだけ動いているか。その間に逆指値があれば、その幅の分だけ滑ります。

結論

  • **ほとんどの飛びは0.1銭(pips)**です。99%が0.4〜0.9以内でした
  • ところが3年間の最大は43.3銭(米ドル/円)、49.3銭(英ポンド/円)、16.2pips(ユーロ/米ドル)でした
  • 5銭以上の飛びは、ロールオーバーの1時間に34倍の密度で集中していました(米ドル/円・夏時間)
  • 米ドル/円の最大の飛びは、米CPI発表の瞬間ちょうどでした
  • **これは「滑りの下限」です。**実際の約定はこれより悪くなりえます

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
  • 対象: 米ドル/円(3,532万組)、ユーロ/米ドル(2,709万組)、英ポンド/円(3,983万組)
  • 測るもの: 連続する2ティックの中値の差の絶対値
  • **間隔が5分を超える組は除きました。**それは「飛び」ではなく「値がついていない時間」だからです(週末や市場のクローズが混ざります)
  • 夏時間と冬時間で分けて集計しました(サンプルを増やしたら、かえって間違えた)

結果1:ほとんどは動かない。しかし端が長い

ペア中央値90%点99%点99.9%点99.99%点3年間の最大
米ドル/円0.1銭0.20.61.32.943.3銭
ユーロ/米ドル0.1pips0.20.40.71.616.2pips
英ポンド/円0.1銭0.40.91.84.349.3銭

**99.99%点と最大の差を見てください。**米ドル/円で2.9銭と43.3銭、15倍です。

これが「端の長い分布」の典型的な姿です。平均や中央値からは、最悪値がまったく予想できません(予測できるのは方向ではなく値幅)。

大きな飛びの頻度です。

ペア5以上飛ぶ頻度10以上飛ぶ頻度
米ドル/円39,340ティックに1回90回(3年で)
ユーロ/米ドル392,664ティックに1回10回(3年で)
英ポンド/円13,735ティックに1回410回(3年で)

英ポンド/円は米ドル/円の3倍、ユーロ/米ドルの29倍の頻度で大きく飛んでいます。

結果2:危ないのは1日1時間に集中している

ここがいちばん実務的です。100万ティックあたり、5以上の飛びが何回あったかを時間帯別に見ます(米国夏時間)。

米ドル/円

日本時間5銭以上の飛び(100万ティックあたり)
6時(ロールオーバー)1,803
7時53
5時51
13時47
21時38

6時台だけが、2位の34倍です。

英ポンド/円

日本時間5銭以上の飛び
6時2,807
7時334
8時122

ユーロ/米ドル

日本時間5pips以上の飛び
6時124
7時15

3ペアとも、ロールオーバーの時間帯が突出しています。冬時間では、これが1時間ずれて7時台になります。

つまり逆指値が大きく滑る危険は、1日のうち1時間に集中しているということです。スプレッドが開くのも同じ時間でした。同じ現象の別の側面です。

結果3:最大の飛びが起きた瞬間

3件を調べました。手元の経済指標カレンダーと突き合わせています。

ペア最大日時(UTC)そのとき何があったか
米ドル/円43.3銭2025-03-12 12:30米CPIの発表ちょうど(総合・コア・前年比が同時)
英ポンド/円49.3銭2024-05-01 22:00前後10分に指標なし。理由は分かりません
ユーロ/米ドル16.2pips2025-04-20 22:00日曜。週明けの取引再開時

米ドル/円の最大が米CPIの分ちょうどだったのは、指標別の実測でCPIが1位だったことと整合します。

ユーロ/米ドルの最大は週明けの再開直後でした。これは週明けギャップの話であって、通常の値飛びとは別物です。除くべきだったかもしれませんが、判定を機械的にするために残しました。

英ポンド/円の最大は、説明がつきませんでした。指標もロールオーバーの時刻でもありません。分からないものは分からないと書いておきます。

実務でどう使うか

  • **逆指値の位置を決めるとき、99.9%点ではなく最悪値を見てください。**米ドル/円で43.3銭です
  • **英ポンド/円は飛びやすいペアです。**米ドル/円の3倍、ユーロ/米ドルの29倍の頻度でした
  • ロールオーバーの時間帯にポジションを持ち越すかどうかが、最も効く判断です。34倍の差があります
  • **数字は「下限」です。**ここで測ったのは配信データ上の飛びで、実際の約定はこれより悪くなりえます。約定の可否や、業者側の処理は別の話です
  • 損切り幅がこの飛びと同程度なら、その損切りは意図したとおりに機能しません。1分足の検証では見えない部分でもあります

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません。配信の間引きがあれば、飛びは実際より大きく見えます
  • **これは配信データ上の飛びであって、スリッページそのものではありません。**逆指値が実際にどう約定するかは、業者の執行方式によります(注文はどこへ行くのか)
  • 間隔5分以内という条件は私が決めたものです。週末や市場クローズを外すためですが、5分に根拠はありません。ユーロ/米ドルの最大値のように、週明けの再開が混ざっていることがあります
  • 3通貨ペアだけです
  • **3年間の最大は「3年間で見た最大」**にすぎません。もっと長く見れば、もっと大きな値が出るはずです
  • 中値で測っています。実際の約定はbidまたはaskで起きるので、スプレッドの分だけ悪化します

まとめ

  • 値飛びの中央値は0.1、99%点でも0.4〜0.9。ほとんどは動かない
  • しかし3年間の最大は43.3銭・49.3銭・16.2pips。99.99%点の15倍
  • 5以上の飛びはロールオーバーの1時間に34倍の密度で集中
  • 米ドル/円の最大は米CPI発表の瞬間ちょうど
  • これは滑りの下限。実際の約定はこれより悪くなりえる

「損切りを置いてあるから最大損失は決まっている」とは、この分布を見る限り言えません。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引手法や注文方法を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。