資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-14
「曜日」「月末」「夏枯れ」を測った — 2つは存在せず、1つは3年では確かめきれなかった
カレンダーにまつわる通説は、たくさんあります。
- 「月曜は動かない、金曜は荒れる」
- 「月末は実需のフローが出る」
- 「8月は夏枯れで流動性が落ちる」
ゴトー日は測りました。残りも確かめます。
結果は、2つは存在せず、1つは3年では確かめきれませんでした。
結論
- **曜日による差はありませんでした。**スプレッドの中央値は月曜から金曜まで完全に同じです
- **月末による差もありませんでした。**むしろ月初のほうがわずかに活発です
- 「夏枯れ」は見えます。ただしどの月が谷になるかは通貨ペアで違い、しかもたった1か月の出来事で像が変わりました
- **3年では、月単位の通説は確かめきれません。**これが今回いちばん確かなことでした
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
- 対象: 米ドル/円、ユーロ/米ドル
- 測るもの: スプレッドの中央値と1日あたりのティック数(値がつく回数)
- 週末は除いています
ロールオーバーの1時間を除いてあります
これは必須の処理でした。
ロールオーバーの時間帯だけスプレッドが9〜26倍になるので、含めたまま曜日や月を比べると、差のほとんどが「その日にロールオーバーの時間がどう混ざったか」で決まってしまいます。
前後30分を除いて集計しています。夏時間と冬時間で時刻が動くので、除く位置も季節で変えています。
結果1:曜日による差は無かった
米ドル/円
| 曜日 | 日数 | スプレッド中央値 | 90%点 | 1日あたりティック数 |
|---|---|---|---|---|
| 月 | 156 | 0.6銭 | 0.9 | 108,198(0.93倍) |
| 火 | 156 | 0.6銭 | 0.9 | 114,144(0.98倍) |
| 水 | 156 | 0.6銭 | 0.9 | 118,233(1.02倍) |
| 木 | 156 | 0.6銭 | 0.9 | 122,218(1.05倍) |
| 金 | 157 | 0.6銭 | 1.0 | 118,927(1.02倍) |
スプレッドの中央値は、5日とも0.6銭で完全に同じでした。90%点も金曜が0.1銭高いだけです。
ティック数は月曜が0.93倍と最も少なく、木曜が1.05倍と最も多いのですが、この程度の差です。
ユーロ/米ドルでも同じでした(中央値は5日とも0.3pips、ティック数0.92〜1.05倍)。
木曜がわずかに多いのは、たぶん指標
経済指標の地図で数えたとおり、重要度の高い指標は木曜に最も集中しています(月曜の3.8倍)。ティック数がわずかに多いのは、それを反映していると考えられます。
ただしスプレッドは動いていません。指標が増えても、その分だけスプレッドが開くわけではない、というのは別の記事で測ったとおりです。
結果2:月末による差も無かった
月初の5営業日・中盤・月末の5営業日で分けました。
| 区分 | 日数 | 米ドル/円 スプレッド | ティック数 |
|---|---|---|---|
| 月初5日 | 129 | 0.6銭 | 121,702(1.05倍) |
| 中盤 | 522 | 0.6銭 | 114,635(0.99倍) |
| 月末5日 | 130 | 0.6銭 | 117,910(1.01倍) |
スプレッドは3区分とも同じ。ティック数は月末より月初のほうが多いという結果でした。
ユーロ/米ドルでも同じ形です(月初1.04倍、月末1.00倍)。
「月末はフローが出る」という通説について、スプレッドとティック数で見る限り、裏づけは見つかりませんでした。
結果3:夏枯れは「ある」が、月がずれる
ここだけは差が出ました。1日あたりのティック数です。
| 月 | 米ドル/円 | ユーロ/米ドル |
|---|---|---|
| 1月 | 1.06倍 | 1.05倍 |
| 2月 | 1.05倍 | 1.01倍 |
| 3月 | 1.11倍 | 1.22倍 |
| 4月 | 1.14倍 | 1.36倍 |
| 5月 | 0.81倍 | 0.96倍 |
| 6月 | 0.73倍 | 0.93倍 |
| 7月 | 0.87倍 | 0.78倍 |
| 8月 | 1.11倍 | 0.84倍 |
| 9月 | 1.08倍 | 0.93倍 |
| 10月 | 0.94倍 | 0.94倍 |
| 11月 | 1.08倍 | 1.04倍 |
| 12月 | 1.06倍 | 0.97倍 |
どちらも夏に谷があります。ただし谷の位置が違います。
- 米ドル/円:**6月(0.73倍)**が最も少なく、次いで5月・7月
- ユーロ/米ドル:**7月(0.78倍)**が最も少なく、次いで8月
そして米ドル/円の8月だけ1.11倍と高いのが目を引きます。ユーロ/米ドルは0.84倍なのに、です。
米ドル/円の8月が高い理由は、1か月にありました
年ごとに分けたら、すぐ分かりました。
| 年月 | 1日あたりティック数 | スプレッド中央値 |
|---|---|---|
| 2023年8月 | 127,530 | 0.6銭 |
| 2024年8月 | 206,385 | 0.8銭 |
| 2025年8月 | 79,458 | 0.4銭 |
| 2026年8月 | 91,913 | 0.4銭 |
**2024年8月だけが飛び抜けています。**他の2年は8万〜9万で、むしろ静かです。
つまり「米ドル/円の8月は活発」という3年分の集計は、1か月の出来事が作った像でした。この月に何があったかはご存じのとおりです。
**3年分の集計に、1か月が支配的な影響を与えうる。**月別に分けると、1つの月には3つのサンプルしかないからです。
何が言えて、何が言えないか
- **曜日効果と月末効果は、「無い」と言ってよさそうです。**日数が各130〜520日あり、スプレッドの中央値が完全に一致しました
- **夏枯れは「ありそう」ですが、断言できません。**方向は両ペアで一致しますが、谷の位置が違い、しかも1か月の事件で像が変わります
- 月単位の通説を3年で確かめるのは無理です。12か月×3年=各月3サンプルしかありません
これはサンプルを増やしたら、かえって間違えたで書いた話の裏返しでもあります。あちらは集計の軸が動いていると長い期間がかえって悪くなるという話でした。こちらは期間を割ると1サンプルの影響が大きくなるという話です。
どちらも「まとめ方で像が変わる」という同じ問題の別の側面です。
実務でどう使うか
- 曜日で取引を変える根拠は、コスト面では見つかりませんでした
- 月末を避ける・狙う根拠も、同様です
- **夏の流動性低下は頭に入れておく価値がありますが、「8月」と決め打ちしないでください。**通貨ペアで違いました
- **3年分の月別集計を見るときは、必ず年ごとに分けてください。**1か月で像が変わります
- 何度も書いていることですが、コストに効くのは時間帯です(1日の85%は「無風」だった)
データの見方(方法と限界)
- 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません
- 2通貨ペアだけです
- 3年分です。月別に見ると各月3サンプルしかありません。上に書いたとおり、これが今回の最大の制約です
- **ロールオーバーの前後30分を除いています。**除かないと差のほとんどがそこで決まります。除く範囲を変えれば数字は動きます
- 祝日を区別していません。祝日は値がつく回数が減るので、祝日の多い月は少なめに出ているはずです
- ティック数は配信側の事情にも依存します。「市場参加者の数」そのものではありません
- **多重比較に注意してください。**曜日5通り、月12通り、月内3通りを見ています。たまたま目立つものが出る前提で読む必要があります
まとめ
- **曜日による差は無い。**スプレッドの中央値は月〜金で完全に同じ
- **月末による差も無い。**むしろ月初のほうがわずかに活発
- **夏に谷はある。**ただし谷の月は通貨ペアで違う(米ドル/円は6月、ユーロ/米ドルは7月)
- 米ドル/円の「8月は活発」は、2024年8月の一件が作った像だった
- 月単位の通説は、3年では確かめきれない
通説を3つ測って、確かに言えたのは「無い」ということだけでした。それでも、無いと分かるのは価値があると思っています。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック。2023年8月25日〜2026年8月23日、2通貨ペア。集計スクリプトは自作
- 時間帯の影響: スプレッドが開くのは1日1時間 / 1日の85%は「無風」だった(当サイト)
- 指標の分布: 経済指標はいつ出るのか(当サイト)
- 祝日: 祝日のスプレッドは開かなかった(当サイト)
- まとめ方で像が変わる話: サンプルを増やしたら、かえって間違えた / 集計スクリプトは、間違っていてもエラーを出さない(当サイト)
- 通説の検証の先例: ゴトー日は実在するのか(当サイト)
- 多重比較: たくさん試して一番良いのを選ぶと、なぜ嘘の好成績が生まれるのか(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時期を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。