資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-14
米雇用統計と米CPI、どちらが荒れるか — 物差しで答えが変わった
「いちばん荒れる指標は何か」
米雇用統計か、米CPIか。両方だという答えは正しいのですが、順位はつけられるはずです。
主要6指標を分単位でプロファイルしました。結果は、物差しによって順位が入れ替わるというものでした。
結論
- 価格の動きでは、米雇用統計が最大でした。平常の36.3倍(米ドル/円)
- スプレッドでは、米CPIが上でした(2.5倍 対 2.3倍)。順位が逆になります
- 順位は2通貨ペアで完全に一致しました
- どの指標も、ピークは発表の分ちょうど。1〜5分で元に戻ります
- 新規失業保険申請は1回では小さい(8.5倍)のですが、週次なので回数が4倍あり、年間の合計では雇用統計とほぼ並びます
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティックと、同ソフトに付属する経済指標カレンダー
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
- 対象: 米ドル/円、ユーロ/米ドル
- 測るもの: 発表の前後30分について、1分ごとのスプレッドと値幅
- 対照: どの指標の前後30分にも入らない時間
同時発表は分離できないので、その分に出た指標の組をまとめて1枠として扱っています(重要度の記事と同じです)。「米CPI」と書いているのは、正確には「米CPIが出る枠」です。
結果:価格では雇用統計、スプレッドではCPI
米ドル/円(平常時:スプレッド0.6銭、値幅1.8銭)
| 枠 | 回数 | 値幅 | 倍率 | スプレッド | 倍率 | 90%点 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 米雇用統計 | 36 | 65.3銭 | 36.3倍 | 1.4銭 | 2.3倍 | 3.6 |
| 米CPI | 34 | 56.0銭 | 31.1倍 | 1.5銭 | 2.5倍 | 3.4 |
| FOMC(金利) | 24 | 38.9銭 | 21.6倍 | 1.6銭 | 2.7倍 | 3.7 |
| 米小売売上高 | 36 | 26.9銭 | 14.9倍 | 1.0銭 | 1.7倍 | 2.4 |
| ISM製造業 | 35 | 20.4銭 | 11.3倍 | 1.0銭 | 1.7倍 | 2.3 |
| 新規失業保険申請 | 151 | 15.3銭 | 8.5倍 | 1.1銭 | 1.8倍 | 2.3 |
ユーロ/米ドル(平常時:0.3pips、1.0pips)
| 枠 | 値幅 | 倍率 | スプレッド倍率 |
|---|---|---|---|
| 米雇用統計 | 40.0pips | 40.0倍 | 2.0倍 |
| 米CPI | 34.1pips | 34.1倍 | 2.0倍 |
| FOMC | 23.8pips | 23.8倍 | 2.0倍 |
| 米小売売上高 | 15.5pips | 15.5倍 | 1.3倍 |
| ISM製造業 | 13.6pips | 13.6倍 | 1.3倍 |
| 新規失業保険申請 | 8.9pips | 8.9倍 | 1.3倍 |
値幅の順位は、両ペアで完全に一致しました。雇用統計 > CPI > FOMC > 小売 > ISM > 失業保険申請。
順位が入れ替わるところ
米ドル/円をよく見てください。
| 値幅 | スプレッド | |
|---|---|---|
| 米雇用統計 | 36.3倍 | 2.3倍 |
| 米CPI | 31.1倍 | 2.5倍 |
| FOMC | 21.6倍 | 2.7倍 |
値幅では雇用統計が1位、スプレッドではFOMCが1位です。順番がまったく違います。
FOMCは値幅で3位なのに、スプレッドでは最も開きます。
これはこのサイトで繰り返し出てきた話そのものです。スプレッドは「値を出す人がいるか」を測る道具で、価格が動くかどうかとは別のことを見ています。
FOMCで値を出す側が最も慎重になる、と読むと筋は通ります。ただしこれは推測です。
どれも「その1分」で終わる
もうひとつ、はっきりした共通点があります。
| 枠 | ピーク | スプレッドが平常の1.2倍を超えていた時間 |
|---|---|---|
| 米雇用統計 | +0分 | 4分 |
| 米CPI | +0分 | 3分 |
| FOMC | +0分 | 3分 |
| 米小売売上高 | +0分 | 2分 |
| ISM製造業 | +0分 | 1分 |
| 新規失業保険申請 | +0分 | 2分 |
6つとも、ピークは発表の分ちょうど。そして1〜5分で元に戻ります。
米雇用統計を詳しく測ったときにも同じ形が出ていました。指標の影響は、思っているよりずっと短いということです。
なお中央銀行の記事で見たとおり、日銀だけは31分続きます。米国の指標とは形が違います。
週1回の指標が、年間では並ぶ
最後にひとつ。
新規失業保険申請は、1回あたり8.5倍です。雇用統計(36.3倍)の4分の1以下です。
ところが週次なので、3年で151回あります。雇用統計は36回です。
平常を1として、超過分を回数で掛けてみます。
| 枠 | 1回あたりの超過 | 回数 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 米雇用統計 | 35.3 | 36 | 1,271 |
| 新規失業保険申請 | 7.5 | 151 | 1,133 |
ほぼ並びます。
「年に何回その場面に出くわすか」まで含めると、地味な週次指標が、月1回の大物とほぼ同じ露出になっていました。
ただしこれは単純な掛け算で、実際の損益がそうなるという意味ではありません。露出の目安としてお読みください。
実務でどう使うか
- 価格の動きを気にするなら、雇用統計が最大です(36〜40倍)
- スプレッドを気にするなら、FOMCが最大です(2.7倍)。値幅では3位なのに、です
- **避けるなら前後5分で足ります。**6つとも1〜5分で戻りました
- **新規失業保険申請を軽く見ないでください。**1回は小さくても、週次なので出くわす回数が多い
- ただし平均コストという意味では、指標を避けても減りません。これは最悪値の話です
データの見方(方法と限界)
- 1つの配信元のデータです。ティックもカレンダーも同じソフトに付属するものです
- 各24〜36回(失業保険申請のみ151回)です。個々の発表のばらつきは大きく、中央値で見た姿です
- 同時発表は分離できません。「米CPIの枠」であって「米CPIの効果」ではありません
- 「合計」の掛け算は目安です。損益を表すものではありません
- 順位が物差しで変わる理由は推測です。確かめていません
- 米国の指標だけです。日銀・ECBは別の記事で測っています
- 変動スプレッド系の配信です
まとめ
- 値幅では米雇用統計が最大(36.3倍 / 40.0倍)。CPI、FOMCと続く
- スプレッドではFOMCが最大(2.7倍)。順位が入れ替わる
- 値幅の順位は2通貨ペアで完全に一致
- 6つとも、ピークは+0分で1〜5分で戻る
- 新規失業保険申請は週次なので、年間の露出では雇用統計とほぼ並ぶ
「どちらが荒れるか」という問いには、何を荒れると呼ぶかを先に決める必要がありました。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(2023年8月25日〜2026年8月23日)と、同ソフトに付属する経済指標カレンダー(2026年8月26日取得)。集計スクリプトは自作
- 雇用統計の詳細: 米雇用統計でスプレッドはどれだけ開くか(当サイト)
- 物差しの選び方: 同じくらい薄いのに、片方は8倍開き、片方はまったく開かなかった(当サイト)
- 中央銀行との比較: 中央銀行8行の政策発表を同じ物差しで測る(当サイト)
- 枠という単位: 経済指標の「重要度」は当てになるか(当サイト)
- 平均コストとの区別: 指標を避けてもコストは1円も減らなかった(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。