資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-10

同じくらい薄いのに、片方は8倍開き、片方はまったく開かなかった — 流動性を4つの物差しで測る

このサイトで測ってきた中で、繰り返し出てくる形があります。

「何かが起きているのに、スプレッドが動かない」

  • 祝日は値がつく回数が4分の1に減るのに、スプレッドは変わらない
  • 指標のサプライズで値幅は3倍になるのに、スプレッドは変わらない
  • 記者会見は価格が動くのに、スプレッドは開かない

では、流動性は何で測ればいいのでしょうか。

4つの物差しを同じ土俵に乗せて、どれが同じ答えを出し、どれが食い違うのかを調べました。

結論

  • **時間帯で見る限り、4つの物差しはほぼ同じ答えを出しました。**どれもロールオーバーの時間帯を最悪と判定します
  • **スプレッドは、値がつく回数の減少に対して非線形に反応します。**半分に減っても1.5倍にしかならず、6分の1に減ると8倍になります
  • ところが祝日は、6分の1に近いくらい薄いのに、スプレッドがまったく動きません
  • 同じくらい薄いのに、片方は8倍開き、片方は開かない。「薄さ」の量ではなく、誰がいないかが違うようです
  • したがって知りたいことによって物差しを選ぶ必要があります

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日、米ドル/円
  • 4つの物差し:
    1. スプレッドの中央値 — いつもの取引コスト
    2. スプレッドの90%点 — 悪い側のコスト
    3. 値がつく回数 — 1時間あたりのティック数
    4. 値がつかない時間 — 連続するティックの間隔の99%点
  • 日本時間の時間帯別に集計し、夏時間と冬時間で分けています。週末は除いています

結果1:時間帯で見ると、4つはほぼ一致する

米国夏時間、米ドル/円です。

日本時間スプレッド中央値90%点1時間あたりティック平常比値がつかない時間99%点
0時0.5銭0.86,6881.41倍5秒
4時0.5銭0.83,6740.77倍11秒
5時0.8銭1.52,5530.54倍18秒
6時4.1銭9.87400.16倍60秒
7時1.0銭2.01,9230.40倍23秒
8時0.7銭1.22,6920.57倍16秒
13時0.6銭1.03,4210.72倍12秒
21時0.6銭0.97,6991.62倍4秒
23時0.5銭0.98,9761.89倍3秒

**4つの物差しが選ぶ「最悪の時間帯」**です。

物差し上位5
① スプレッド中央値6時 7時 5時 8時 9時
② スプレッド90%点6時 7時 5時 8時 9時
③ 値がつく回数が少ない6時 7時 5時 8時 13時
④ 値がつかない時間が長い6時 7時 5時 8時 13時

上位4つは完全に同じでした。5番目だけ、①②は9時、③④は13時と分かれます。

冬時間でも同じ形でした(1時間ずれて7時が最悪)。

時間帯を選ぶ目的なら、どの物差しを使っても結論は変わりません。

結果2:スプレッドは非線形に反応する

上の表を、ティック数の減り具合とスプレッドの開き具合の対応で並べ直します。

日本時間ティック数スプレッド
4時0.77倍1.0倍
13時0.72倍1.2倍
8時0.57倍1.4倍
5時0.54倍1.6倍
7時0.40倍2.0倍
6時0.16倍8.2倍

きれいに対応していますが、直線ではありません。

  • ティック数が半分になっても、スプレッドは1.5倍程度
  • ティック数が6分の1になると、スプレッドは8倍

**最後のひと押しで急に跳ねます。**だから「少し薄い」時間帯では、スプレッドを見ても何も分かりません。

上の表の13時がその例です。ティック数は0.72倍と平常より3割少ないのに、スプレッドは0.6銭で、平常の0.5銭とほとんど変わりません。

結果3:ところが祝日は、この関係から外れる

ここが今回の核心です。

祝日を測った記事の数字を、同じ形で並べます。

ティック数スプレッド
ロールオーバー(6時)0.16倍8.2倍
両国とも祝日0.24倍1.00倍

ほぼ同じくらい薄いのに、片方は8倍開き、片方はまったく開きません。

上で見た非線形の関係が正しければ、0.24倍のときは5倍前後になるはずです。なりませんでした。

「薄さ」の量ではなく、誰がいないか

推測になりますが、こう考えると筋が通ります。

  • ロールオーバーは、値を出す主体そのものが手を引く時間です。値が出ないので、残った気配のあいだが空きます
  • 祝日は、取引する人が減る日です。値を出す側は営業しているので、同じ幅で値を出し続けます

つまり「流動性が下がる」という一言に、まったく違う2つの状態が入っています。

  • 値を出す人がいない → スプレッドが開く
  • 取引する人がいない → スプレッドは動かないが、値がつく回数が減る

スプレッドはなぜ変動するのかで書いた「原則固定」の話も、同じ構造です。値を出す側が「同じ幅で出し続ける」と決めていれば、スプレッドは動きません。かわりに約定拒否という別の形でコストが出ます。

何を知りたいときに、どれを見るか

知りたいこと見る物差し
いつもの取引コストスプレッドの中央値
最悪のコストスプレッドの90%点、そして1ティックの値飛び
注文が反応するまでの時間値がつかない時間
市場に人がいるか値がつく回数
値を出す人がいるかスプレッド(これは素直に反応する)

スプレッドは「値を出す人がいるか」を測る道具であって、「市場に人がいるか」を測る道具ではありませんでした。

これが、このサイトで何度も「スプレッドが動かない」に出くわした理由です。測っていないものを、スプレッドで確かめようとしていたわけです。

実務でどう使うか

  • **時間帯を選ぶだけなら、スプレッドで足ります。**4つの物差しが同じ答えを出しました
  • **祝日や薄い時間帯を評価するなら、スプレッドでは分かりません。**値がつく回数を見てください
  • **指値・逆指値の挙動が気になるなら、「値がつかない時間」**です。ロールオーバー時は99%点で60秒でした
  • **「流動性が下がる」と聞いたら、どちらの意味かを確かめてください。**対処法が変わります
  • コストとして最も効くのは、やはりロールオーバーの1時間です。4つの物差しすべてが最悪と判定した唯一の時間帯でした

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません
  • **ティック数は配信側の事情にも依存します。**間引きがあれば「値がつく回数」は実際より少なく見えます。市場参加者の数そのものではありません
  • 1通貨ペアだけです(米ドル/円)
  • **「値がつかない時間」は時間帯の境目で切れています。**時間帯をまたぐ間隔は数えていません
  • **祝日との比較は、別の集計(日単位)の数字を持ってきています。**時間帯別の集計とは粒度が違うので、厳密な比較ではありません
  • 機序の説明は推測です。「値を出す人がいない」「取引する人がいない」という区別は、この配信のデータからは直接は見えません
  • 変動スプレッド系の配信です。国内店頭FXで主流の「原則固定」とは性質が違います

まとめ

  • 時間帯で見る限り、4つの物差しはほぼ一致する(上位4つが完全に同じ)
  • スプレッドは非線形。ティック数が半分で1.5倍、6分の1で8倍
  • **祝日はこの関係から外れる。**0.24倍まで薄いのにスプレッドは1.00倍
  • 「薄さ」の量ではなく、誰がいないかが違うらしい
  • スプレッドは「値を出す人がいるか」の物差しであって、「市場に人がいるか」の物差しではない

「流動性」という言葉を、スプレッドひとつで測ろうとすると失敗します。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。