資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-11
指標を避けてもコストは1円も減らなかった — 減ったのはロールオーバーを避けたときだけ
「指標の前後は取引しない」
自動売買でも裁量でも、よく聞く方針です。では、それでコストはいくら減るのでしょうか。
前に中央値で測ったときは、「24時間中22時間で差が0.0」という結果でした。
ただし、あれは中央値です。コストを決めるのは平均です。中央値が動かなくても、端が重ければ平均は動きます。
平均で測り直して、金額まで出しました。
結論
- 指標を避けても、平均スプレッドは下がりませんでした。それどころか0.1〜0.2%上がりました
- ロールオーバーを避けると15.2%下がります(ユーロ/米ドルで11.8%)
- 失う時間で比べると差は歴然です。指標回避は1.2%の時間を捨てて削減ゼロ、ロールオーバー回避は3.7%捨てて15%削減
- 米ドル/円を0.1ロットで年2,000回取引する場合、ロールオーバー回避で年間22,742円の削減でした
- **ただし、これは平均の話です。**最悪値を避けたいかどうかは別の判断です
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティックと、同ソフトに付属する経済指標カレンダー
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日、米ドル/円とユーロ/米ドル
- 考え方: 「ランダムな1分に取引する」とみなし、分ごとの平均スプレッドを出して、分について等重みで平均します
- 比べる条件: ①何も避けない ②指標の前後5分を避ける ③ロールオーバーの前後30分を避ける ④両方
ティック数で重み付けしないこと
これは年末年始を測ったときに学んだことです。
ティックの数で重み付けすると、値がつきにくい時間帯ほど寄与が小さくなります。ところがそういう時間帯こそスプレッドが広いので、コストを過小に見積もってしまいます。
分について等重みにすれば、「ランダムな時刻に取引したときの期待コスト」になります。
結果:指標を避けても減らない
米ドル/円(約109万分)
| 条件 | 平均スプレッド | 削減率 | 取引できない時間 |
|---|---|---|---|
| 何も避けない | 0.744銭 | — | 0% |
| 指標を避ける | 0.744銭 | −0.1% | 1.2% |
| ロールオーバーを避ける | 0.631銭 | 15.2% | 3.7% |
| 両方避ける | 0.630銭 | 15.3% | 5.0% |
ユーロ/米ドル
| 条件 | 平均スプレッド | 削減率 | 取引できない時間 |
|---|---|---|---|
| 何も避けない | 0.400pips | — | 0% |
| 指標を避ける | 0.400pips | −0.2% | 1.5% |
| ロールオーバーを避ける | 0.353pips | 11.8% | 3.8% |
| 両方避ける | 0.353pips | 11.7% | 5.3% |
指標回避の削減率がマイナスです。避けたほうが、わずかに高くなります。
なぜ、避けると高くなるのか
理由を考えると筋が通ります。
指標が出る時間帯は、もともとスプレッドが安い時間帯だからです。
経済指標の地図で数えたとおり、重要度の高い指標は日本時間21時(米国の朝)に最も集中しています。そこは市場が最も厚い時間で、スプレッドは1日で最も安い部類です。
つまり「指標を避ける」は、安い時間帯の分を捨てていることになります。指標の瞬間だけは高いのですが、前後5分の窓全体で見ると、平均より安いわけです。
対してロールオーバーは、ただ高い時間帯です。避ければ素直に下がります。
金額にすると
米ドル/円を 0.1ロット(1万通貨) で取引する場合です。1銭 = 100円として計算します。
| 取引回数 | 何も避けない | ロールオーバーを避ける | 差 |
|---|---|---|---|
| 年500回 | 37,200円 | 31,514円 | -5,686円 |
| 年2,000回 | 148,799円 | 126,056円 | -22,742円 |
年2,000回で22,742円です。
指標を避けた場合の差は、同じ条件で**+90円**(つまり増える)でした。
これはスプレッドだけの金額です。スワップやスリッページは含みません(実際にいくら払っているのか)。
ただし「平均」の話です
ここは強調しておきます。
この記事が測ったのは平均コストです。最悪値は別の問題です。
- 米雇用統計の発表の瞬間は、実際にスプレッドが開きます
- 指標発表時の値飛びで、逆指値が大きく滑ることがあります
- 中央銀行の発表では値幅が平常の9〜26倍になります
「その瞬間にポジションを建てる・持っている」なら、避ける意味はあります。
避けることに意味がないのは、平均的なコストを下げる目的の場合です。
言い換えると、**指標回避は「コスト削減策」ではなく「リスク管理策」**として位置づけるほうが筋が通ります。
実務でどう使うか
- **コスト削減が目的なら、ロールオーバーを避けてください。**15%減ります
- **指標回避をコスト削減の名目で入れているなら、外して構いません。**1.2%の時間を捨てて、削減はゼロです
- リスク管理としての指標回避は別の話です。最悪値を避けたいなら、続ける理由があります
- **失う時間も勘定に入れてください。**ロールオーバー回避で3.7%、指標回避で1.2%です
- **金額は取引回数に比例します。**回数が少なければ、どちらも誤差の範囲です
データの見方(方法と限界)
- 1つの配信元のデータです。ForexTester 6 の Advanced Data Feed で、その先の流動性提供元は公開されていません。自分の口座のスプレッドとは一致しません
- **金額は仮定の上に成り立っています。**0.1ロット、1銭=100円、年500回/2,000回。自分の条件に置き換えてください
- 「ランダムな1分に取引する」という前提です。実際の戦略は特定の時刻に偏るので、結果は変わります。特に指標を狙う戦略なら、話はまったく別です
- 窓の幅(前後5分・前後30分)は私が決めたものです。幅を変えれば数字は動きます
- 重要度1以上の指標を対象にしています
- スプレッドだけです。スワップ・スリッページ・約定拒否は含みません
- **平均の話です。**最悪値については何も言っていません(上記)
- 変動スプレッド系の配信です。国内店頭FXで主流の「原則固定」とは性質が違います
まとめ
- **指標を避けても平均スプレッドは下がらない。**むしろ0.1〜0.2%上がる
- 理由は、指標が出る時間帯がもともと安いから
- ロールオーバーを避けると15.2%下がる(ユーロ/米ドル11.8%)
- 年2,000回・0.1ロットで22,742円の差
- **ただし平均の話。**最悪値を避けたいなら、指標回避には別の理由がある
「避ける」という同じ行動が、コスト削減としては無意味で、リスク管理としては有効という結果でした。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(2023年8月25日〜2026年8月23日)と、同ソフトに付属する経済指標カレンダー(2026年8月26日取得)。集計スクリプトは自作
- 中央値での測定: 1日の85%は「無風」だった(当サイト)
- 重み付けの教訓: 年末年始で本当に危ないのは2日だけだった(当サイト)
- 指標の集中: 経済指標はいつ出るのか(当サイト)
- 時間帯別のスプレッド: スプレッドが開くのは1日1時間(当サイト)
- 最悪値: 米雇用統計でスプレッドはどれだけ開くか / 逆指値はどこまで滑りうるか / 中央銀行8行の政策発表を同じ物差しで測る(当サイト)
- コスト全体: 実際にいくら払っているのか(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。金額の試算は記載した仮定に基づくものです。