資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-09

予想を外してもスプレッドは開かなかった — 大きく動いたのは価格のほうだった

「予想を大きく外すと相場が荒れる」と言われます。

荒れるという言葉には、2つの意味が混ざっています。価格が大きく動くことと、スプレッドが開くことです。

この2つは同じではありません。祝日を測ったときにも、流動性が落ちてもスプレッドは動きませんでした。

サプライズの大きさで分けて、両方を測りました。

結論

  • スプレッドはサプライズの大きさでほとんど変わりませんでした。予想どおりでも大外れでも、平常の1.3〜2.0倍の範囲です
  • 価格の動きは大きく変わりました。小さいサプライズで平常の4.9〜5.8倍、大きいサプライズで12〜16倍。約3倍の開きです
  • 予想がちょうど当たった回でも、スプレッドは平常の1.7倍開いていました
  • つまりスプレッドは「発表があること」に反応していて、「中身」を見ていません
  • 3通貨ペアすべてで同じ形でした

何を測ったか

  • データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティックと、同ソフトに付属する経済指標カレンダー
  • 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日
  • 対象: 米ドル/円(発表463分)、ユーロ/米ドル(553分)、英ポンド/円(164分)。重要度2以上
  • 測るもの: 発表のその1分のスプレッドの中央値と値幅(その分の中値の最大−最小)

サプライズの大きさをどう揃えたか

指標ごとに単位が違います。雇用者数は「万人」、CPIは「%」です。そのまま比べられません。

そこで、その指標が普段どれくらい外すかで割りました。

正規化サプライズ =|結果 − 予想|÷ その指標の |結果−予想| の中央値

1.0なら「いつもどおりの外し方」、2.0なら「いつもの2倍外した」という意味になります。これで指標をまたいで比べられます。

同じ分に複数の指標が出る場合は、その中で最大の正規化サプライズをその枠の値としました。どれが効いたかは分離できません(重要度の記事と同じ扱いです)。

前提を2つ潰してあります

この測定は、結果と予想の値が正しく読めていることと、記載時刻が正しいことに依存します。どちらも先に確かめました。

結果:スプレッドは動かず、価格が動く

米ドル/円(平常時:スプレッド0.6銭、1分値幅1.9銭)

サプライズ回数スプレッド平常比1分値幅平常比
予想どおり(0)111.2銭2.00倍15.2銭8.00倍
小さい(0〜0.5倍)811.0銭1.67倍11.0銭5.79倍
普通(0.5〜1倍)1081.1銭1.83倍16.3銭8.58倍
大きい(1〜2倍)1671.2銭2.00倍27.3銭14.37倍
かなり(2〜4倍)841.2銭2.00倍31.1銭16.37倍

スプレッドは1.67倍から2.00倍へ、0.33しか動きません。同じ範囲で値幅は5.79倍から16.37倍へ、2.8倍になっています。

ユーロ/米ドル(平常時:0.3pips / 1.1pips)

サプライズ回数スプレッド平常比1分値幅平常比
小さい830.4pips1.33倍5.4pips4.91倍
普通1280.4pips1.33倍8.1pips7.36倍
大きい2080.5pips1.67倍13.5pips12.27倍
かなり1000.5pips1.67倍16.7pips15.18倍

スプレッドは0.34しか動かず、値幅は3.1倍になりました。

英ポンド/円でも同じ形でした(スプレッド1.50→1.70倍、値幅5.54→9.00倍)。

予想が当たった回でも、スプレッドは開いている

表のいちばん上の行を見てください。

結果が予想とちょうど一致した回でも、スプレッドは平常の1.67〜2.00倍開いています。値幅も2.9〜8.0倍です。

「サプライズが無かったから何も起きない」わけではありません。

これがこの記事の核心です。スプレッドが開くのは、中身が意外だったからではなく、発表という出来事があったからです。

理由を考えると筋が通ります。値を出す側は、発表の瞬間に自分が古い情報で値を出してしまうことを避けたい。中身が予想どおりかどうかは、出てみるまで分かりません。だから中身に関係なく、一律に手を引きます。

一方、価格が動くかどうかは中身次第です。だから値幅のほうはサプライズの大きさに素直に反応します。

同じ形が3回目です

このサイトで測ってきた中で、**「スプレッドは開かないのに何かが起きている」**という形は、これで3回目です。

場面起きたことスプレッド
祝日値がつく回数が4分の1に減る変わらない(1.00〜1.05倍)
記者会見価格が動く(値幅の最大が+6分)ほぼ変わらない(1.3倍でなだらか)
指標のサプライズ値幅が3倍に膨らむほぼ変わらない(1.3〜2.0倍)

スプレッドという数字は、思っているより多くのことを見ていません。

スプレッドが素直に反応するのは、ロールオーバーのように値を出す主体そのものが一時的にいなくなる場面です。そこでは9〜26倍になります。

実務でどう使うか

  • **サプライズの大きさで取引コストを見積もる必要は薄そうです。**スプレッドは1.3〜2.0倍の範囲に収まっていました
  • **リスクを見積もるなら値幅のほうです。**大きなサプライズでは1分の値幅が平常の12〜16倍になります。米ドル/円で27〜31銭です
  • **「予想どおりだから安心」とは言えません。**予想が当たった回でもスプレッドは1.7倍、値幅は2.9〜8.0倍ありました
  • **逆指値の位置は、サプライズの大きさを見ても決められません。**発表前に分かるものではないからです。1ティックの値飛びのほうを見てください
  • コストの観点では、指標より時間帯のほうが桁違いに効きます(1日の85%は「無風」だった)

データの見方(方法と限界)

  • 1つの配信元のデータです。ティックもカレンダーも同じソフトに付属するものです
  • **「極端(4倍超)」の階級は5〜12件しかありません。**表に載せていますが、読まないでください。米ドル/円ではこの階級だけ値が下がっていますが、件数から言って意味のある差ではありません
  • **同時発表は分離できません。**その分の最大のサプライズを代表にしています
  • 正規化の方法は私が決めたものです。「その指標の普段の外し幅の中央値で割る」以外にも方法はあり、階級の切り方も恣意的です
  • 予想値が発表後に書き換えられていないかは確かめられていません(前の記事に書いたとおりです)。書き換えられていれば、サプライズは実際より小さく見積もられています
  • **サプライズの符号(上振れか下振れか)は見ていません。**絶対値だけです。方向の話は投資判断に近くなるため扱いません
  • 変動スプレッド系の配信です。国内店頭FXで主流の「原則固定」では、拡大のかわりに約定拒否という形になることがあります(約定とスリッページの仕組み)

まとめ

  • スプレッドはサプライズの大きさでほとんど変わらない(1.3〜2.0倍の範囲)
  • 値幅は3倍近く変わる(4.9〜5.8倍 → 12〜16倍)
  • 予想がちょうど当たった回でも、スプレッドは1.7倍・値幅は2.9〜8.0倍
  • スプレッドは「発表があること」に反応し、「中身」を見ていない
  • 同じ形は祝日・記者会見でも出た。これで3回目

「荒れる」という言葉を、スプレッドの数字で確かめようとすると失敗します。ここでも別のものを見る必要がありました。

出典

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や指標の利用を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。