資料室 ── 市場構造・コスト ── 更新 2026-09-16
指標発表とロールオーバーは正反対だった — 片方は人が集まり、片方はいなくなる
このサイトでは、スプレッドが開く場面を2種類測ってきました。
- 毎朝のロールオーバー:平常の8倍
- 経済指標の発表:平常の2〜3倍
どちらも「スプレッドが開く」と言われます。同じことが起きているのでしょうか。
流動性を4つの物差しで測った記事で、スプレッドは「値を出す人がいるか」の物差しだと整理しました。その道具で、この2つを比べます。
結論
- 正反対でした。
- 指標発表の瞬間は、値がつく回数が4.7倍に増えます。値がつかない時間は8秒から1秒に縮みます
- ロールオーバーは、値がつく回数が半分に減ります。値がつかない時間は60秒まで伸びます
- つまり**指標は「人が集まる」、ロールオーバーは「人がいなくなる」**場面でした
- だから指標発表でスプレッドがあまり開かないのです。値を出す人は、むしろ増えています
何を測ったか
- データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティックと、同ソフトに付属する経済指標カレンダー
- 期間: 2023年8月25日〜2026年8月23日、米ドル/円
- 対象: 重要度2の発表712枠
- 測るもの: 1分あたりのティック数と、ティック間隔の99%点(値がつかない時間)
- 対照: 指標の前後30分にもロールオーバーの前後5分にも入らない時間
結果:発表の瞬間はティックが4.7倍に増える
| 発表からの分 | 1分あたりティック | 平常比 | 値がつかない時間99%点 |
|---|---|---|---|
| -10分 | 136 | 1.67倍 | 4秒 |
| -5分 | 128 | 1.57倍 | 4秒 |
| -1分 | 152 | 1.86倍 | 4秒 |
| 0分 | 385 | 4.73倍 | 1秒 |
| +1分 | 280 | 3.44倍 | 2秒 |
| +3分 | 266 | 3.27倍 | 2秒 |
| +10分 | 227 | 2.79倍 | 2秒 |
| +30分 | 208 | 2.55倍 | 2秒 |
平常時は1分あたり81ティックです。発表の分は385まで増えます。
**値がつかない時間も縮みます。**99%点で8秒 → 1秒。値がつきやすくなっているわけです。
発表前から高いのは、時間帯のせい
表の -10分がすでに1.67倍です。これは発表の効果ではありません。
重要度の高い指標は日本時間21時(米国の朝)に集中しています。その時間帯はもともと厚いので、対照(1日全体)と比べると高く出ます。
その場での増加分を見るなら、-10分の1.67倍を基準にして、発表の分は約2.8倍と読むのが正しいでしょう。
いずれにせよ、減ってはいません。
ロールオーバーは、正反対
同じ物差しで、ロールオーバー(ニューヨーク17時の前後5分)を見ます。
| 1分あたりティック | 平常比 | 値がつかない時間99%点 | スプレッド | |
|---|---|---|---|---|
| 平常時 | 81 | — | 8秒 | 0.6銭 |
| 指標発表(0分) | 385 | 4.73倍 | 1秒 | 1.5銭(2.5倍) |
| ロールオーバー | 42 | 0.52倍 | 60秒 | 4.1銭(8.2倍) |
ティック数は4.73倍 対 0.52倍。9倍の開きがあります。値がつかない時間は1秒 対 60秒です。
まったく逆の現象でした。
これで説明がつく
このサイトで繰り返し「価格は動くのにスプレッドが開かない」に出くわしてきました。
理由は、これで説明がつきます。
**指標発表は「値を出す人がいなくなる」場面ではないからです。**むしろ増えています。だからスプレッドはあまり開きません。開かないのが正しいわけです。
値幅は平常の31〜36倍になります。価格は激しく動きます。それでも値は出続けている——それが指標発表の姿でした。
対してロールオーバーは、値を出す主体そのものが一時的にいなくなります。値幅ではなくスプレッドと「値がつかない時間」に出ます。
| 指標発表 | ロールオーバー | |
|---|---|---|
| 何が起きているか | 人が集まる | 人がいなくなる |
| 値がつく回数 | 4.7倍 | 0.52倍 |
| 値がつかない時間 | 1秒(短くなる) | 60秒(伸びる) |
| スプレッド | 2.5倍 | 8.2倍 |
| 値幅 | 31〜36倍 | — |
| 続く時間 | スプレッドは1〜5分 | 36〜61分 |
実務でどう使うか
- 指標発表で心配すべきは、スプレッドではなく値幅です。31〜36倍動きます
- ロールオーバーで心配すべきは、スプレッドと約定です。値がつかない時間が60秒に伸びます
- 指値・逆指値の反応は、指標発表時のほうが速いはずです。値がつく回数が4.7倍なので
- **同じ「避ける」でも、理由が違います。**指標は値動きから、ロールオーバーはコストと約定から
- コスト削減という意味では、ロールオーバーを避けるほうだけが効きます(15.2%減、指標回避は0%)
データの見方(方法と限界)
- 1つの配信元のデータです。**ティック数は配信側の間引きにも依存します。**市場参加者の数そのものではありません
- 1通貨ペアだけです(米ドル/円)
- 対照は1日全体なので、時間帯の効果が混ざります(上記)。発表前の1.67倍がその分です
- 重要度2の枠だけです
- 「人が集まる/いなくなる」は解釈です。この配信のデータから直接見えるのは、ティックの数と間隔だけです
- 値がつかない時間は、時間帯や窓の境目で切れています
- 変動スプレッド系の配信です
まとめ
- **指標発表は、値がつく回数が4.7倍に増える。**値がつかない時間は8秒→1秒
- **ロールオーバーは、値がつく回数が半分に減る。**値がつかない時間は60秒
- 正反対だった
- だから指標発表でスプレッドがあまり開かない。値を出す人は増えている
- 同じ「スプレッドが開く」でも、中身がまったく違う
このサイトで繰り返し出てきた「価格は動くのにスプレッドが開かない」は、ここで説明がつきました。
出典
- 集計データ: ForexTester 6 の Advanced Data Feed が配信するティック(2023年8月25日〜2026年8月23日、米ドル/円)と、同ソフトに付属する経済指標カレンダー(2026年8月26日取得)。集計スクリプトは自作
- 物差しの整理: 同じくらい薄いのに、片方は8倍開き、片方はまったく開かなかった(当サイト)
- ロールオーバー: スプレッドが開くのは1日1時間 / 「NZドルは1日2回ロールする」は本当か(当サイト)
- 指標の値幅: 米雇用統計と米CPI、どちらが荒れるか(当サイト)
- 同じ形の乖離: 祝日のスプレッドは開かなかった / 予想を外してもスプレッドは開かなかった / 中央銀行8行の政策発表を同じ物差しで測る / 中国の指標はどの通貨に効くのか(当サイト)
- 指標の集中する時間帯: 経済指標はいつ出るのか(当サイト)
- コスト削減の比較: 指標を避けてもコストは1円も減らなかった(当サイト)
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の取引や時間帯を推奨するものではありません。数値は集計期間における実測値であり、将来の結果を保証するものではありません。